アスリートスポーツ、特にチームスポーツを指導して19年目になるS&C専門家の弘田雄士です。
トレーニングプログラム作成の際に十分な配慮が必要なことの一つが、「プッシュ動作とプル動作の比率とその選択」です。
『押してだめなら引いてみろ』などと昔からいいますが、ことトレーニングプログラムに関しては、引くことを中心に考えるべき。
押すと引くのバランス、構成要素となる種目選択に関しての私の考えを書いていきます。
プル動作を多めに構成するのが鍵
結論から先に書きます。
私の場合、チームプログラムを作成する際は、特異的なケースを除きプル(引く)動作のほうがやや多くなるように構成します。
一般のクライアントはほぼ100%、鍛えているアスリートでも多くの競技においては前面を使ったプッシュ系動作の方が優位に使っているからです。
現在、最も多く指導しているラグビーは典型的で8割方の選手が、首が前方突出し肩甲骨外転位の円背姿勢です。
強く安定した立位姿勢を保つために、より後面の強化を図る必要があります。
時期にもよりますが、プル動作を3種目、プッシュ動作を2種目のバランスでプログラムに組み込むようにしています。
引く/押す系種目の比率に関する研究論文などのエビデンスが存在すれば参考にしたいのですが、私の知る限りエビデンスはありません。
リサーチ方法も難しいでしょうしね…
今までの経験と感覚から取り入れている比率なので、
「エビデンスないものは×!」
という方は、シンプルに1:1の比率で組み込んでいく、というやり方でいいでしょう。
種目選択にも充分な考慮を
プル動作とプッシュ動作。その比率だけでなく、出力方向にも充分な考慮が必要です。
先程のラグビー選手の例では、体脂肪が少なくトレーニング中級者以上の選手だと軍隊姿勢といわれるような肩甲骨がぐっと内転しているような菱形筋優位のタイプもいます。
このタイプに対して「肩関節への負担が少ないから」という理由で
・DB1アームロウ
・ケーブルローロウ
・ベントオーバーロウ
のような、水平方向へのプル動作ばかりを採用したら…。
軍隊姿勢を更に強めてしまい、腰痛リスクなど増加してしまうでしょう。
一方で野球の投手のケースでは、利き手側の肩が下垂しているケースって典型的。
この傾向にある投手に対しては、むしろ水平プル種目が有効です。
前後の筋バランスを整える意味でも積極的に採用しましょう。
その代わり、垂直方向のプル種目には慎重になるべきです。
肩甲平面(スキャプラープレーン)上で軽量だからといって、ルーティン化したようにラットプルダウンを多く採用するのは、利き手側の肩甲骨の位置をさらに下げてしまう
可能性が高いからです。
プッシュ系に関しても、正しい位置から上方回旋を伴う、ランドマインプレスのような種目を腹圧を高めた状態で行わせるような工夫が必要です。
現実的な対応として
上記は一例ですが、プル/プッシュの比率だけでなく、選択種目の出力方向も考えていく必要があるということを理解していただけたと思います。
選手全体へのチームプログラムの場合、なかなか個別対応まで細分化して作成するのは難しく、現実的ではありません。
私は「考慮すべき選手リスト」を作り「この3選手はベントオーバーロウの代わりにアシストバンドつけたプルアップ(懸垂)に変更」といった指示を出して対応しています。
パーソナルプログラムのようなきめ細かさとは違いますが、この配慮だけでも高確率でトレーニングによる障害発生リスクを抑えられると考えています。
握力に対する配慮が必要なケースも
投手の例では、グリッピングするという把持機能への配慮が必要なケースもあります。
野球のような繊細な技術スポーツに関しては、リストストラップ、パワーグリップを使い分けさせて、手に対して過度な負荷がかからないように指導することも重要です。
上手に活用しましょう。
一方でデッドリフトなど高重量を扱う種目にも関わらず、ラグビーのスクラム最前列を担うフロントローと呼ばれるポジションの選手には、基本リストストラップは禁止。
競技特性として味方や相手のユニフォームを強くグリッピングしながら力発揮することが求められるからです。
この辺りは頭を使うことをさぼらずに、「狙った目的に対する手段」として適切かどうかを考える癖をつけなくてはいけませんよね。
まとめ
[・プッシュ/プル動作の比率は「ややプル系が多め」がオススメ
・動作比率だけでなく種目選択も重要
・どの期間でも「なにを目的とした手段としてどう構成するか」を常に考慮した現場指導をしましょう
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YUJI HIROTA
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