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アスリートが伝える「違和感」の正体

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松坂大輔投手がテストを経て中日ドラゴンズへ入団することが決定しましたね。

弘田のコンディショニングコーチとしてのバックグラウンドは野球。野球の現場が長かったこともあってか、現在所属しているラグビーチームにおいても、選手から「弘田さん、野球選手って…」という類の質問を受けることが多いんです。

本日はそんな野球の話題の中から「違和感」についてを書いていきます。

「違和感」の正体

額面通りでない違和感

そんなラグビー選手の素朴な疑問として挙がるものの上位に、「野球選手のいう『違和感』って何?」というものがあります。

違和感で出場を見合わせる、選手登録を抹消するとか、ちょっと過敏すぎるんじゃないんでしょうか、という質問です。

確かに世間一般に使われる「違和感」という言葉の定義通りで出場を見合わせていたら、ラグビー選手の殆どは試合に出られないでしょう。部分的な張りや痛みはありつつプレーする、というのが彼らにとっては普通だからです。

その気持ちはわかるよと頷きつつ、野球選手、特に投手が肩や肘に対して抱く「違和感」は言葉本来の持つそのままの意味ではありません。

もう少し緊迫感のある状態を指している、というのは経験上わかっていますが、どう説明したらいいものなのだろうか、と考えてしまいました。

 

為末大さんの言い得て妙の表現

何度かそんな経験をした後、定期的にチェックさせていただいている為末大さんのブログ記事に、ズバリそのことを表現しているものを見つけました。

それがコチラ→『撤退は進むより勇気と経験がいる』

その中で為末さんはこんな表現をされています。

[box class=”yellow_box” title=”引用1”] 「現役時代によく“違和感”程度で陸上選手は休みすぎじゃないかと言われたものだ。その頃から漠然と、世の中には、もしかするとスポーツ界にも陸上選手のいう違和感というものがどんなものかうまく伝わっていないのではないかと感じてきた。」[/box] [box class=”yellow_box” title=”引用2″]「一体陸上選手の違和感とはなんなのか。選手の競技力が卓越してくると、体のあらゆるサインを感じ取れるようになる。例えば、何とも言えずハムストリングスが気持ち悪い時がある。陸上選手は体験的に、この張りの方向はやばい方向なのか、安全なのかをわかるようになる。安全な方向であればごまかせるが、やばい方向であれば怪我に繋がることがかなり多い。特に今回のように五輪予選を欠場する程の違和感であればすでに痛みも伴っていて軽い肉離れのような状態になっているのだろうと思う。」[/box]

私がプロ野球チームに所属していたころの投手には、同じようなセンサーを持っている投手が多くいました。

UPの感覚から持病の膝の痛みが出そうなことを伝えてくる選手。可動域からみれば無理をすべきではないような肘の状態にも関わらず、「この感じなら、エクササイズをしてから長めにキャッチボールをしていけば、充分に投げられるよ」と予定通り登板する選手。

為末氏はこうも続けます。

[box class=”yellow_box” title=”引用3″]「イメージでいうと、大きな凍った湖の上に立っているとする。自分が立っている地面がぴきぴきと音を立てている。いいから思いっきり地面を踏んでみろと言われるが、確かに割れないかもしれないけれど、割れてしまって湖の中に沈んでしまうかもしれない。その上に立っている本人には足の裏からヒビが入っている感触が伝わっているが、外からはよくわからない。そういう状況に似ている。」[/box]

確かに「いや、まだ大丈夫だと思うけど。…腕が振れない。」といって投球を中止したりするケースもありました。性格もあるかもしれませんが、キャリアを積んだ感覚のある選手ほどこういう感覚を持っていた気がします。

 

秀でた選手にセンサーがある、という事を知っておくこと

この仕事に就いて17年目。一流といわれる選手ほどこういったセンサーを備えている、というのを実感しています。

残念ながら私にはここまでの感覚はありませんが、「トップアスリートはそこまでの感覚を備えていることがある」という事実を認識しておく、ということは大切。

その上で、違和感の原因や要素が科学的・解剖学的な見地である程度解消できないか、という観点からチェックテストや提案をする、というのがあるべき姿なのだと思います。

裏を返せば、いい選手ではあるもののこういった微細な感覚を持ち合わせていないアスリートもまた存在する、ということにもなります。動きを見たり、パートナーストレッチをしている中で、私がその選手に対して「違和感」を持つことも多々あるのです。

練習や試合前、決まった数名の選手が弘田の近くに寄ってきます。「チェック?」そう確認すると頷く選手。

だいたい仰向けに寝てもらい、股関節屈曲位での確認テスト(勝手に使っているものなので正式名称はわかりませんが)をして、どの辺りに変化が出ているのかを伝える。そこから一連のチェック項目へ。

30~40秒のコミュニケーションですが、ストレングス寄りではなく、こういったチェックメーター的な立ち位置も私自身の大切な役割であり強みです。

もちろん気にしすぎてしまう傾向の選手もいますから、個人の性格をまず考慮。どうして私が違和感を感じるように至ったのかを咀嚼した上で、必要があると思ったらその選手に伝えるようにしています。

数値化はできませんが、この声掛けや説明を持つことによって、年間10件前後の怪我は防ぐことができているのではないか、と「感覚的に」捉えています。

 

まとめ

野球選手が表現する「違和感」というのも、為末さんが仰るもの同様、「明らかに普段とは違う、ちょっとした痛みと大きな危機感のある状態」と考えると納得できるのではないでしょうか。

全ての選手ではないけれど、感覚のセンサーが研ぎ澄まされている選手にはそういった嗅覚がある。そしていい選手であってもセンサー能力がないタイプもいる。

この事実を認識しておくかどうか。スポーツ現場に関わるトレーナー業にとっては大きな違いになるはずです。

 

 

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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