哲学

主語を誰にするかで専門家の評価は大きく変わる

この記事では「主語を誰にするかがアスリートとの信頼関係を築く鍵ではないか」という話をしていきます。

ちょっととっつきづらく相談しづらい専門家はなぜ多いのか

先日の事ですが、ベテランアスリートと珍しくじっくり腰を据えて話す機会があったんです。とても信頼していて大好きなアスリートの彼曰く、今まで出会ってきて深く関わってきたトレーナーさんのタイプには傾向がある、という話でした。

十中八九真面目で仕事熱心。でも押し付けがましかったり、質問したことを疎ましそうにする人が一定数いますよね、という内容だったんです。

正直私も大いに思い当たるフシがあり、

「なんでそうなりがちなんだろうねぇ…。凄く熱心だし、みんな真面目なのに、コミュニケーションに関しては、何で言われるような反応をするんだろう」

というと、アスリートの彼は、

「たぶん自分の型のスタイルでやりたいようにならないことが嫌なのが1つ。逆に自分がすごい自信のない部分に触れられたり、自分の専門分野でないことでわからないことを認めることができないのが別の理由じゃないですかね」

と言っていました。

…う~ん、厳しいけど的を射た意見だと思いました。

基本的には選手のことを真剣に思って、時間もかけて情熱があるはずなのに、いまひとつ選手から慕われなかったり、相談を受けることが少ない専門家はいらっしゃるんです。

そうなると悪循環。意固地になって、自分の型に執着してなかなかPDCAが回せない。改善ができてこないので偏った感じの専門家になっていくという人を、これまで多く見てきました。

主語は「あなた」が必要な基本姿勢

結局、慕われる専門家と慕われない専門家というのは実力じゃなくて、もっと別の要素が大きいね、という話に落ち着きました。

何かあったときに、主語が「選手にとってベストは」、「あなたに必要なのは」という選手側を主語を使う人というのは慕われるよね、と。

一方で主語が『I』、『私』の人は伝わらない。

「俺はこの症状だったら」、「いや、そのやり方に納得できないなら、あとは自分でやってもらうしかないな」と突き放してみたりするタイプですね。

自分の主観として伝えてしまったり、自分目線で伝えるのか、それとも相手の為というのが伝わっていて伝えられるのか。この違いはかなり大きいんです。

同じように思いはあるのに、伝わり方が大きく変わってくるんだから、主語が「I」タイプの人は、何しろもったいないよねといった話になりました。

「You」と「I」の使い分けも重要

何でもかんでも、主語が「You」で、常に何がしたいの?どうしたいの?ばかりでも問題です。やはり、まず問題や課題を解決するための方針みたいなものは、常に選手側『You』を主語にするような専門家がいいでしょう。

一方でアドバイスや励ましを伝える際には『I』を主語にしてくれると、選手側としてもすごく聞き入れやすい。

「お前はこういうタイプだ」、「こうすべきだよ」と決めつけられるのは、反発したくなるもの。俺の何を知ってるの?って感じるのが普通ですよね。

これが、「俺から見てお前はこういうところがあって、この優しい部分というのがいいところだと思う。ただ今はマイナスに作用すると思うから、こんな気持ちでやってみたらどうかな?」みたいな伝え方が効果的でしょう。

アドバイスや励ましの際には『I』、俺はこう思うけどといったようないい方を無意識に使い分けていられる人はやっぱり慕われるんですよね。

「~してあげる」、「~させる」思考の人は要注意

コンディショニングコーチという名前で20年近く仕事をしてきました。前提として、指導者やコーチが陥りがちな思考があるというのは理解しているつもりです。

いかにうまくしてあげるか。
いかに真剣に取り組ませるか。
いかに自発的に取り組ませるか。
いかに人間的成長に繋げさせるか。
いかにして努力を報わせてあげるか。
いかにして勝ちの喜びを経験させてあげるか。

真面目な人ほど、「してあげる」とか「なんとかさせる」で頭の中がいっぱいになりがちなんですね。でも…

「助けよ。少なくとも傷つけるな」

有名なヒポクラテスの誓いを思い浮かべて欲しいんです。気持ちが強すぎるあまり、手を出して傷つけてしまうことだけは避けないといけない。

特に選手がまだまだ子供の頃は、夢中な状態のままでいさせてあげること。本来ここは不可侵なものですからね。

指導者であろうが、年配者であろうが、親であろうが、その部分を他人がとやかく言うべきじゃない。

無理矢理に「学習」にしたり「~道(どう)」にしたりすべきじゃない。

医学に関わるものでないとしても、上記のヒポクラテスの誓いを胸に刻んでおくことは大切ですよね。

子どもを信じるしかない親のような心境も必要

私は、専門家としてプロとして、常に選手の役に立ちたいと思っています。

ただ常々、選手に伝えているのは、もし今最も優先順位として高いものが私の要素でなかったり、専門性だったり人間性だったりと関係ないものであるなら、使わなくていい。利用できるときに上手に自分の専門性や経験とかを使って欲しいとも言っています。

あくまでも主人公は選手。選手が主体的に「こうやってみよう」と思うところに導くコーチングができる専門家でありたいです。

子を想う親と心境は似ていて、子ども(選手)が心配で心配で仕方がなくて、できれば先回りして手痛い失敗をしないでほしいし、口を出したい!

…でも結局は信じて見守るしかないんですよね。

この部分は、子を持つ親となった今、自分のコーチング信念もより強まった気がしています。

今、スポーツ現場で自分が空回りしていたり、思ったより選手との信頼関係が築けないと悩んでいる人もいるでしょう。

ついつい専門知識を更につけることや、経験を積むことに逃げがちですが、そういうことじゃないんですよね。

課題や問題解決のためには相手を主語に。
そしてアドバイスや励ましをする際には自分を主語に。

この2つを徹底するだけで選手は救われるし、随分と相談しやすくなる。だからまずはここを徹底してみてほしいな、と思っています。

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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