コンディショニングコーチとして今まで600人以上のアスリートを指導してきた弘田雄士です。
様々なスポーツに関わってきましたが、現場で直面する悩みって知識や経験でないことがほとんど。
ズバリ人間関係。それも監督やコーチとの関係構築です。
いろいろな理由があり一概には言えないのですが、「トレーニング指導者あるある」の一つであろう、この問題を掘り下げていきましょう。
監督やコーチがなぜトレーニングに理解を示してくれないのか
トレーニング指導者が率直に感じることが多いこと。
それが「なぜ監督やコーチは我々の仕事に理解を示してくれないのか」ということ。
S&Cコーチやトレーニング担当の立場からすると、
「量が足りなくて選手を甘やかしているんじゃないか」
「トレーニングの合間に選手が笑っているのは真剣味が足りない」
「ウエイトばかりやらせすぎじゃないか」…
言葉を選びつつも、定期的に伝えられるこういった要求(注文?)は「頼むから放っておいてよ、こっちもきちんと考えがあってやってるんだから!」と言いたくなります。
でもちょっと待った。
そんな感想が出るには、やはり理由があるんです。
典型的な理由を4つ挙げてみます。
1.S&C分野がどうアプローチするのかわかっていない
専門的なイメージが全くない。
徐々に強度をあげていくとか、まず怪我しないフォーム確立を目指すなんて概念がない。
自分たちよりも効果的に「鍛えてくれる≒痛めつけてくれる」だろうという感覚のコーチ。
思ったよりも大勢いるものです。その部分を攻めても仕方がありません。
専門家ならではの計画性や全身的過負荷をわかりやすく伝えるだけで、今までよりも大幅にストレスなく業務に集中することができるようになるケースもあります。
2.監督たちの不安や葛藤をこちらが理解していない
このケースもけっこう多いもの。
1年契約の恐怖や結果の全責任を取らされるコーチの重圧。
トレーニング指導者側が想像を巡らせても、それまでの人生の想像の範疇を超えているストレスです。
特に現役時代にある程度実績を残している指導者は、やらせる立場に回ると不安で不安で仕方がなくなるもの。
現役のとき感じていた「機械じゃないんだから、毎回こんな高強度の練習できるわけないだろ?」みたいな気持ち。
半数以上のコーチが忘れていると考えていて間違いありません。
…正確には「リアルな鮮度が薄れていく」ように見えますが。
少しずつちょっとずつ「他人事」になっていくんですね。
その感覚の乖離とともに選手との距離も離れていくケースが多くて、近くにいると切ないですが…
話が逸れました。
チームの現場トップにとって最大の敵は自分の不安感とプレッシャー。
我々の想像を絶する恐怖(絶対的な権力という甘美な立場を失うという観点も含めて)を日々抱えているコーチたちの心情。
トレーニング指導者側も想像力を駆使して汲み取るような姿勢があると、今よりも折り合いのついたコミュニケーションが取れるでしょう。
3.こちらのポイントがずれている
コーチが求めていることを我々がしていない、というパターンも多いです。
これは方法論のことではありません。
コーチが究極の目的と考えていることが、こちらが「ゴールとしている理想論とズレている」ということです。
私自身の体験談を例に挙げると、実の父親からこんな言われ方をしたことがあります。
「理論的には筋力が上がってナンタラカンタラ…そんなこと、どうでもいいんだよ。どうしたら選手たちがフィジカルの面をプラスにして野球が上手くなるのか、そのことをもっとシンプルに考えてくれ」
プロ野球で36年間生きてきた父、弘田澄男からS&C専門家として言われたこと。
— ひろたゆうじ@アスリート指導500人超えスポーツ現場トレーナー (@yuji163) December 16, 2019
専門家の手を借りることで、目の前の選手のパフォーマンスが上がることを期待している。
当たり前のようですが、コーチが求めている正直なところはここです。
「いや、そのための基礎を作るのは我々だけどパフォーマンス向上は技術コーチでしょ?」と思うのは当然。
でも、体が大きくなるとか強くなるといったことを数値や理屈だけでなく、グラウンドやフィールドで実感したいわけです。
「ああ、確かに体が変わってきたな。バットスピードも力強くなっている。効果あるんだな」
こういうことですよね。
まぁ体系立てて正しいと考えるアプローチをしていけば、十中八九パフォーマンスそのものにいい変化は出るのですが、目的に対する手段として効果を最大化するという意識。
そのためには何から始めたらいいのかという優先順位や言葉がけ。
コーチが真に求めていることを理解すれば、コーチからの信用や評価は大幅に変わるものです。
やっているアプローチの違いは僅かであるのですが…
4.なめられている
腹が立ちますが、このパターンもあるんですよね。
「今よりも高いレベルにするには、根本的な体作りや基礎的な体の使い方を習得する必要がある」
→「でも知識もないし、正直そこに興味がない」
→「専門家がくるらしい。お、自分より若いしちょっと自信なさげだな。こいつで本当にビシビシ鍛えられるのか?(この思考の正誤は別)」
→「ま、いいか。面倒な基礎的トレーニングはこいつにやらせて、俺は自分のやりたいところに力をいれよう」
→「おい、選手にヘラヘラさせるなよ。もっとガンガン鍛え上げていいから。友達みたいに話すなよ!」
これほど露骨に出す人は少ないけれど、まぁ本音はこんな感じ。
立ち上がりでこれだと正直打開策は少ないです。
専門家としてある程度以上の結果を出しても、このマインドの指導者だと
という思考が通常運転ですから。
自分が若かろうが、経験が少なかろうが、相手から一目置かれるような毅然とした態度で臨む。
後述する「イメージしやすい説明」を駆使してプレゼン能力を高める、という2本柱が必要になるでしょう。
監督やコーチがイメージしやすい説明を行おう
上記に挙げた典型的な4パターン。
いずれのケースも最も効果的なのは「監督やコーチがイメージしやすい説明力」を養うこと。
この観点でのプレゼン能力はアスレティックトレーナーでも理学療法士でも必須です。
私が意識している4つのポイントを列挙してみますね。
1.可視化しよう
わかりやすいのは筋力テストの向上率や記録です。
定期的なフィットネステストや形態測定も有効。
ただ数値化できるものでいうと、筋力トレーニングプログラムが最も説得力を持ちます。
細かな種目は別として、平均的な重量xセット数x回数を中心とした総量を提示できれば…。
わかりやすくプログレッションさせていくイメージが湧くんですね。
もちろん必ずしも数値化でなくても構いません。
チームアップの中での柔軟性であったり、ダイナミックドリルの股関節のなめらかな動きであったり。
監督やコーチが観察している動きで、特に注力して取り組んでいると伝えておいた要素の変化を出せると説得力がぐっと増します。
2.量でなく質によるハードさを目の当たりにしてもらおう
ちゃんと鍛えてくれるだろうか、選手は苦しい表情を演技してみせて実は余裕を残しているんじゃないか。
疑心暗鬼になっているコーチに、フィットネスや筋力トレーニングの一部を見学してもらうのも効果的です。
「これ、何本やっているの?今までは40本ぐらいやらせていたけど」
「はい、8本1セットで行い、今2セット目の4本目です。8本3セット行います」
「…ずいぶん苦しそうにしてるな。最近怠けてたのか?」
「今まで漠然と取っていた休息時間を運動時間と同じ秒数に設定しています。セット間のレストも70%程度まで回復するかしないかの時間設定です」
「へぇ。それでこれだけきつくなるんだな」
…やらせみたいな会話になりましたが、こんな状況はよくあります。
指導者には科学的=保守的というイメージが強いので「真綿で首を絞めるような苦しさだと思います」と伝えると、納得したり安心したり(このマインドの正誤は別)するものです。
3.監督やコーチの不安感を汲み取り先読みした提案をしよう
こんな「ぬるい雰囲気」のトレーニングで果たして選手が強くなるんだろうか?
トレーニング導入期や強度設定の「谷」の状態を見た監督やコーチ。
すぐにそういった発想になる方も多いものです。
提案をする際に「最初のうちは『この動きばっかりやっていて大丈夫なのか?』や『全然量が足りないんじゃないの?』と2週間ぐらいは感じると思います。
これまでとアプローチが全然違うことになりますから。1ヶ月後には『ああ、大丈夫そうだ』、3ヶ月後には『ちょっとハード過ぎるんじゃないか?』ぐらいには感じてもらえるはずなので安心していただければ。具体的には…」
みたいに「不安は織り込み済みですよ」という伝え方をするだけで、指導者はぐっと安心するもの。
ぜひ提案の仕方を一工夫してみましょう。
4.責任の所在をはっきりさせよう
ちょっと分かりづらいですが、提案にも差し込んでおくといい点が責任の所在です。
ストレングスやフィットネスに関わることは、当然トレーニング担当の責任になるのですが、非常に余裕のないコーチと関わると「悪くなったら何でもS&Cの責任、結果が出たらコーチの功績」型の思考に巻き込まれがち。
ブレイクダウン周りで低く入れるためにも、こういった動作と角度で力が出るように発展させていきます。ラック周りで負けなくなるための基礎を築いていくことに注力します。技術的な課題改善は宜しくお願いいたします。
実際に現場で細かなコミュニケーションをとって、具体的なイメージなども擦り合わさせてください。
→パフォーマンスに関してまで何でもかんでもS&Cの責任にはしないでくださいね。
今日、ここで死ぬほどやらせて欲しいというニーズには応えられませんが、1週間、1ヶ月、1年単位で計画的に選手を強くするために負荷はかけていきます。そこはプロなので信用していただいて、アプローチや手段はぜひお任せください。
→他の誰かみたいな「苦しいことさせ屋」にはならないですよ。良かれと思っての介入は逆効果。やり方はこちらに任せてください。
超訳としてはこんな感じ…。でも本当にこういった差し込みは大切です。
決意表明であり、ある種の先制布告。
前述の4つの理由の最後に挙げた「なめられている」問題があるなら尚更これは重要。
認めてもらう必要はありますが、妥協しても評価はされません。
強い紹介案件を作れるのが理想
フォローするつもりは全くありませんが、私が最近関わっている現場でこういったストレスはほとんどありません。
コーチ側の世代が若返り、トレーニングへの理解度や信用が高まってきたことが1つ。
もう1つの理由は、ほとんどが紹介案件なので「これぐらい実績がある人なら大丈夫だろう」という信用、「紹介されたキャリアのある人だから気に入らないけど、あまりやり方には口出せない」という重圧が加わっているためです。
できるだけこういう環境に持っていければいいですよね。
まとめ
指導者心理を理解した上で、提案する際のコミュニケーションのとり方を工夫。
プレゼン能力を向上させる。
わかりやすい説明を記録や資料、数字を提示して伝える。
こういった総合力を上げれば、今よりも円滑にトレーニング指導を実施していくことができるはず。
声かけの一工夫に関しては、2020年3月8日にNSCA南関東ADセミナーで深堀りします。
→詳しくはコチラ。
また説得力を持たせるためにも有益な筋力プログラム総量の出し方。
これに関しては、満を持して新年を迎えてトレーニングプログラムシートを皆さんに発表する予定です。
めっちゃ工夫して作成したので、ぜひ楽しみに待っていてください!
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YUJI HIROTA
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