子どもの育成は選抜システムとは違う!日本のスポーツの未来のために指導者・親が気づくべきこと

超高齢社会を迎えて待ったなしの日本。スポーツのおける育成についても真剣に考えていかなくてはいけない。

2018年2月28日水曜日に丸の内ラボセミナーの第11回目、小俣よしのぶ氏によるセミナーに参加してきて、感じたことをまとめました。

 

日本スポーツが抱える育成と選抜の矛盾

 

今回のセミナー受講で自分自身、改めて感じたのが「育成と選抜」の問題。

日本はJSC(日本スポーツ振興センター)との連携事業として「タレント発掘育成事業」を行っています。しかし実質的には選抜システムの構築を行っていて、育成をしているわけではありません。

私は今の日本の状況では、選抜ではなく育成にシフトしていくべきだと思っています。

 

各都道府県が取り組んでいるのは選抜システム

一例としてあげれば、私が住む埼玉県の取り組みでは、小学4年生になると希望者であれば全員参加できるプロジェクトがあります。

小学校4年生の段階で30M走、立ち幅跳び、メディシンボール投げが行われ、その結果によって候補がピックアップされ、二次審査に進むわけです。

この3つが全て「エネルギー系体力テスト」と分類されるタイプであること。

実施時期が一律小学4年生であること。

そもそもの問題点として、自ずと早熟型で成長スピードの速い子供が「選抜」される仕組みになってしまっているんです。

そこで選抜されれば、二次審査へ。

ここではもう少し細分化されたテストである、

1.立ち3段跳び
2.Tテスト
3.反復横跳び
4.メディスンボール投げ(後ろから)
5.20Mシャトルラン
6.身長体重測定

へと移行するシステム。

ここにきてようやく身長や体重といった身体形態に関するデータをとるわけです。

あり余る人口を抱えていて「ふるい落とし」のためのテストであれば良かったのが高度成長期。
団塊の世代が70歳前後となった今の超高齢社会では、子供の数は減る一方。

現在の日本において、この種の選抜システムは機能しづらいのです。

トレーナー業を生業にしている専門家であれば、なおさら強くそう感じます。

 

早熟な子供が有利な選抜システム

選ばれた選手の大多数が早熟であるがゆえの高身長、高体重をもっていることの有利性が働いていての好成績であると仮定すると。

半数以上の「選抜」選手は年を重ねるごとに平凡な成績の選手になっていくことになります。

親心としては我が子が二次審査まで進んだら、「せっかくだから選ばせてあげたい!」と思うのは理解できるところ。
立ち3段跳びやTテストなど、普段やらないテスト種目を練習しているご家族も私の周りにはいらっしゃいました。

…決して悪いことではないものの、手段と目的がマッチしていない。

国や県は何でもっと効率的な取り組みを考えないのだろう?そんな風に切なくなったものです。

 

選抜と育成の定義があいまいな日本のスポーツ

埼玉県の取り組みはほんの一例。

現段階で各県が行っている「育成プロジェクト」と名付けられたものの大半は、実質的には選抜システム。

つまり選抜と育成の定義が曖昧なんです。

ごっちゃになってしまっているところが現在の日本の前提としての問題点なのは間違いありません。

 

日本が進んでいくべきなのはLTAD

上記のような競争選抜が悪いわけではありません。
しかし「淘汰型」である選抜には以下のような、一定の条件が必要です。

1.充分な国家人口

2.充分な競技者人口

3.高度化した国内競技レベル

4.多様な人種構成

 

国家人口

ここ10年の緩やかな人口減少のからくりが「平均寿命が延びたころで高齢者の数が増えている」ことに起因していること。現状の国内支援システムでは上がるわけがないのですが、一向に上がらない平均出生率。

国家人口は右肩下がりになっていますよね。

競技者人口

国家人口の減少に伴い、どのスポーツにおいても競技者人口は減少傾向です。

国内競技レベル

未だに卓球やレスリング、野球やサッカーなど日本の競技レベルは高い水準を保っています。しかし、底辺を支える参加人口は減少の一途。ここを何とかしないといけません。

人種構成

ケンブリッジ飛鳥選手やサニブラウン選手、大坂なおみ選手など。日本のスポーツ界でもハーフの選手が比2000年ごろに比べて増えています。

ただ、少子化対策としても有効とされている移民対策において、日本は先進国の中で積極的でないとされています。

[box class=”blue_box” title=”世界の移民人口 国別ランキング”] 1位:アメリカ…    4662万人
2位:ドイツ…     1200万人
3位:ロシア…     1164万人
4位:サウジアラビア… 1018万人
5位:イギリス…    854万人

28位:日本…204万人
(引用資料出所:世界銀行 World Bankより)[/box]

こういった観点からも、島国日本において多種な人種構成というのは、大幅には広がっていかないでしょう。

やはり、今後の日本が採用すべきはLong Term Athelete Development(以下LTAD)と呼ばれる長期育成システム。

この方向性は間違いないと思います。

 

理想的な育成システムのために今考えるべきこと

育成システムの部分で、決して進んでいない日本の現状。課題は山積しています。具体的に問題を挙げてみましょう。

現代の子供たちに既に出ている運動機能障害傾向

転んでもとっさに手を出せない子や、股関節と膝を90度まで曲げることができない「しゃがめない」子どもをみると、危機感が募ります。

レクリエーションとしてのスポーツと競技スポーツの定義づけ

本来は楽しいはずのスポーツを、年齢やレベルに関係なく何でも競技にしていまいがちなのは、日本のスポーツの問題点です。

選手を支える指導者の育成システムが構築されていないこと

選手そのものではなく、指導者の一貫した指導方針や哲学といったものが確立されていないこと。これは単独で考えても大きな問題です。

各スポーツで露呈されてきた問題点

・日本レスリング協会の選手とコーチの間に起こった問題
・相撲協会における一連の騒動
・日大アメフト部における非常に危険で非人道的なタックルをまつわるチーム体質

ここ1~2年で隠し切れなくなった膿(うみ)が一気に外に出てしまっている印象があります。

閉鎖的な環境が指導者の権力を必要以上に強めていないか

一つ一つの問題には、関係者や当事者の責任といった側面もあるでしょう。

しかし指導者や責任者を組織として監督・指導できず「現場に任せっきり」のシステムにも、大きな欠陥があると考えるのは乱暴でしょうか。

どのスポーツにおいても協会や団体の中は、とても閉鎖的なもの。

クローズドな環境で、その組織の中で行われている実態がほとんど外に出てこない。
中にいる指導者や関係者も、別スポーツや競技外の専門家と交流を持とうとしない。

長い時間をかけて、閉ざされた組織の中だけに通用するルールや文化が熟成されていく。
結果として、指導者やリーダーの権力が必要以上に強くなり、その人が絶対化していく。

こういった負の連鎖に根本からメスを入れなくてはいけない時期に来ている。

個人的には強くそう感じています。

日本の文化背景を生かそう

これらは1つ1つでも大きな課題です。

私が関わる指導やコーチングという分野では、やはり指導者のクオリティや共通言語を構築することは急務だと思っています。

伝統や師弟関係という言葉で包まれていた矛盾や闇の部分の限界。

これらはミクロの問題ではなく、日本スポーツ界全体のマクロな問題の氷山の一角に過ぎないはずです。

平昌オリンピックでは隣国である韓国のお家騒動というか、国民性で大いに考えされられました。私同様の不快感や悲しみを感じた方も多かったのではないでしょうか。

様々な問題を抱えているとはいえ、日本人が本来持つ「配慮と敬意」の美しい文化は依然スポーツ界にも根差しているはず。

諦める事なく、「正しい問いを立てる」ことができれば、未来の日本を支える子供たちが全力で不要に傷つくことなくスポーツに取り組めるシステムを作れる。この部分は疑いなく、私はそう信じています。

小さな個である私に何ができるか。

はっきりとした答えはまだ出ませんが、自問自答を続けながらジュニアスポーツの発展に寄与できる活動を行っていきたいと思っています。

 

 

まとめ

・選抜と育成をごちゃまぜにしないこと

・LTAT(長期育成)が今後の日本のスポーツ界の進むべき道

・日本の文化って素晴らしいところもいっぱいある。いい方向に進めよう!

・個としての力を上げないと社会の役に立たない。スポーツ界に貢献できる個になりたい

 

 

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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