立花龍司さん。
日本に「コンディショニング」と
いう言葉が頻繁に出てこなかった
1980年代後半に、プロ野球の世
界で革命的ともいえる肩の小さな
筋肉群へのアプローチをして、
一躍トレーニングやコンディショ
ニングを世に広めた人物。
日本球界におけるコンディショ
ニングコーチのパイオニアです。
私が丸坊主で甲子園を目指してい
た高校生のころ、先輩がチューブ
でやっている肩のトレーニングに
衝撃を受けました。
今や誰もが知っているローテータ
カフエクササイズですね。
これを日本に広めたのが立花さんで、
当時トルネード投法で大スターにな
った野茂英雄投手へのトレーニング
指導で一躍有名になっていたのをこ
の時に知りました。
千葉ロッテに移籍した際に1年共に
したボビーバレンタイン監督を慕っ
て渡米。
日本人初のMLBコーチとしてNY
メッツに行ったというのも衝撃的
でした。
当時はフジテレビのプロ野球ニュー
スなどにも頻繁に登場し、「すご
い有名な人なんだ~」といった感
覚でしかなかった立花さん。
高校で野球の技術に伸び悩み、大
学でも野球への未練を断ち切れず
に悶々としていた自分が大学2年
を過ぎたころ、ふと思い出したの
が立花さんの現場での姿だったん
です。
大好きな野球の傍らで、選手のた
めになる仕事。
最初にイメージしたトレーナーは
治療やテーピングをするいわゆる
アスレティックトレーナーだった
のですが、正直自分に向いている
イメージは全くありませんでした。
コンディショニングコーチ。
この仕事を目指せるんだったら迷
わずに頑張れそうだ。
直感的にピンときたその日の瞬間。
今でも鮮明に覚えています。
大学3年までに卒論以外の全単位を
取得。
教員免許には目もくれず、トレーニ
ング関連の本を読み漁る日々。
1回5万円と学生には高すぎるぐらい
の年1回のベースボールセミナー
(当時はジェイバッツが主宰だった
と記憶しています)のためにアルバ
イトでお金を貯めて、立花龍司さん
に会いに行きました。
大学4年時には半数近くが外国人会員
のフィットネスジムでアルバイトを
しながら、英語学校へ通いつめ、大
学卒業と同時にアメリカ留学。
運動科学の勉強と念願のMLB傘下
3Aチームでのインターンを経験で
きました。
立花さんは夢を失くして途方に暮れ
ていた私に、光を差し込んでくれた
恩人なんです。
野球しかしてこなかった自分が、
選手としての野球を断念し途方に
くれていた、あのとき。
立花さんがコンディショニングコ
ーチという道を照らしてくれてか
ら、あっという間に20年が経ちま
した。
立花さんと直接関わらせていただく
ようになったのが、立花さんが楽天
イーグルスを経て、私が所属して
いた千葉ロッテに3度目の復帰をさ
れた2007年のことでした。
ロッテに復帰しながらも時間の折り
合いをつけながら、筑波大学の大学
院で学んでいた立花さん。
2008年7月に無事筑波大学修士課程
を卒業しました。
働きながらの勉学は本当に苦労が多
かったようで、当時の立花さんの感
慨深げな表情が印象的でした。
アドバイスしていただき、今でも大
切にしているのが「学び続ける姿
勢がもっとも大切だよな」という
お言葉。
私が専門職として働いているこの仕
事は、日進月歩であり常に新しい
情報を入れていく必要があります。
その上で、客観的な目を持ってベ
ストに近いベターな判断を溢れる情
報の中から取捨選択していく。
日々の勉強は、そのためにも欠か
せないものですよね。
言葉にすると当たり前でも、続けて
いる人ははごくわずか。
立花さんは、今もなお当たり前の
ように学び続けています。
自分の前を行く先輩が背中で示して
くれる姿は、年を重ねるほど貴重で
あり勇気を与えてくれるんです。
2年ほど前、偶然にも自分が40歳
という区切りを迎えるその日に、
私がディレクターとして関らせて
もらっている、タチリュウコン
ディショニングジムの入社式が
ありました。
その際、何年振りかに立花さん
のお話を聞く機会に恵まれました。
立花龍司さんに憧れこの世界を目
指した自分が、最初の夢であった
プロ野球の現場でコンディショニ
ングの仕事に就くことができた。
憧れだった立花さんが千葉ロッテ
に復帰し同じチームで3年間一緒
に仕事をするチャンスをいただけた。
千葉ロッテ退団後、再就職で苦労
していた自分に絶妙のタイミング
で声をかけてくださり、ご自身
が共同オーナーを務める「タチ
リュウコンディショニングジム」
の初期メンバーとして、コンテ
ンツを作る仕事を任せてくださった。
自分の思いが一方的な部分はありま
すが、何かしらのご縁があり、自
分は今仕事ができているんだなぁ、
と感慨深い思いを抱きました。
実は写真が苦手な立花さん。
講演が終わったらなかなか機会はな
いのを承知しているので、失礼を
承知で講演間の10分休みに、
「立花さん!すみません、お写真
一緒に撮ってください!!ちょう
ど40に今日なりました。誕生日記
念に!」と強引に頼み込みました。
「お~、そうかぁ。雄士ももう40
かぁ。写真一緒に撮るのも久しぶ
りやなぁ。」
とお付き合いいただきました。
こういう時のお顔はいつも、こん
な感じ。照れくさそうです。
そして私はいつになく、にやつ
いています。とても幸せな瞬間
だったんですよね。
私が今の道に進むきっかけをくだ
さった原点の方とのひと時を経
て、自分自身も気持ちを新たに、
と身が引き締まる思いになりました。
基調講演としてお話をしてくだ
さった立花龍司コンディショニ
ングコーチ。
専門家として影響を受け、学
ぶことも数多いのですが、今
回改めて立花さんの偉大な部分
にいくつか気がつきました。
立花さんは人前で話すこと、
プレゼンテーションをするこ
とがめちゃくちゃ上手です。
とにかくわかりやすく、面白い。
そうなんだ、やってみよう、
というエッセンスに溢れています。
手元に資料はゼロ。
このテーマで話す、となるとほ
ぼ完ぺきに再現性のある話をされ
ます。
莫大な量の講演を行っている中で、
各講演から更に改善点や修正、
足すべきエピソードなどを加えて
いるので、どんどん内容の精度が
上がっているのでしょう。
そして実は話の展開はとてもシン
プルです。
テーマに沿った研究論文やデータ
をポンと挙げ、概論を語る。
その内容に、自らの経験談を重ね、
親しみやすく生きたエピソードで
補足する。
聞き手に興味を持たせ、自ら考え、
講演に参加する機会を与える。
相手から答えを引き出しつつ、本
質的に伝えたい核心部分を語る。
ひたすらこの繰り返しです。
1時間~2時間という尺の講義を聞
く中で、受講者は無意識にこの構
成パターンに慣れていくのでしょう。
だから飽きないし、理解が進むんで
すね。
こんなに難しい本質的なエッセンス
を、どうして自分のものとして咀
嚼できるのか、ということも長年
私が抱いていた疑問でした。
難しいことを簡単に表すには、本
質的な理解が不可欠。
立花さんは常に物事をごく簡単に
説明するところまで落とし込みま
す。
それがどれだけ難しいことか、
人前でセミナーや講演をさせて
いただくようになった今、強く
実感します。
この部分も少しヒントが得られ
た気がしました。
立花さんはご自身で「野球おた
く」とおっしゃるほど、真の野球
小僧です。
私自身も野球に魅せられ、愛し、
「永遠の片思い」なんてふざけて
言うほど大好きですが、立花さん
には適いません。
いかなる難しい研究や、ビジネス
セオリーも、常にその大好きな野
球に置き換えることで、自分に関
係したものとして深く理解するこ
とができる.
このことに今回初めて気がつきま
した。
自然に「気づきと置き換え」が出
来ているんですね。
自分自身も、概念的なものや科学
的知見を深く理解したい、という
際には、現在関わるラグビーで
あったり野球のケースに置き換え
ます。
どんなものに対しても、柔軟にこ
ういった置き換えをしていくべき
だな、と感じました。
そして改めて、人気がある人だなぁ
と実感しました。
これは文章では上手く表現できない
のですが、一たび話し始めると、
立花さんはとても人間的なんですね。
かわいらしい、というと語弊があり
ますが、表情豊かに、自分の大好
きなことについて一生懸命に話して
いる、という様子が伝わってきます。
その雰囲気に人が耳を傾けたくな
り、その人の傍にいたくなる、
人が集まる気を発していく「人
気のある」人物になっていくんで
しょう。
心理学的にいうところの、
「ハロー(後光)効果」。
この域に達するのはとても難しい
こと。
偉大な先人の輝かしいキャリアや
先駆者としてのバイタリティには
適わなくても、この「人間力」
や「熱」の部分は、日々1%ずつ
でも進歩、成長していけば身につ
いていくもののはず。
少しでもこういった魅力に追いつ
けるよう、精進あるのみ!と思っ
ています。
立花さんは累計20冊以上の著書
を持っていらっしゃいます。
その中でも私が個人的にオススメ
な3冊をご紹介しましょう。
比較的新しいですが、野球を頑張
る子供のご両親にぜひ読んで欲し
い、これぞ立花龍司!という内容
のわかりやすい本です。
amazon unlimitedに加入してい
る人は何と無料で読むことができ
ます。
指導者やトレーナーも目を通して
絶対に損がない内容。チェックし
てみてください。
私が未だに読み返すことのある、
大事な大事な本です。
実際のエピソードや人物像などの
紹介もあり、「ああ、こんな人
達と仕事がしたい!」と強く願っ
たものでした。
10年も経たないうちに、この本の
中で紹介されていたプロのコーチ
の何人かと一緒に仕事をさせて
いただけるようになったのは、
私の人生の宝物になっています。
古い本なのに全く色あせない大切
なメッセージが詰まっています。
あまり目立っていない書籍かも知れ
ませんが、野球に関わる人のトレー
ニングネタ満載の本です。
実は自分がモデルであったり、いく
つか種目を紹介しているので、思い
入れもあるというのもあります。
憧れの立花さんの冠本に関われた
思い出の一冊です。
・立花龍司さんの存在があって
天職と思える今の仕事に巡り合
うことができた
・恩人である立花さんの学び続
ける背中に勇気をもらい、今も
走る続けることができている
・難しい内容をわかりやすく伝
える「気づきと置き換え」力が
高いのが立花さん
・「人気のある人」。一度ライ
ブで話を聞けばその魅力に引き
込まれるはず