2014年なのでもう3年前になりますが、渡辺俊介投手に同行し渡米しました。3か月もの間みっちりとアメリカの野球を学ぶことができた経験は私にとって大きいものでした。
今回は日米におけるコンディショニング事情の違いから、疲労を考慮した試合前練習について旧サイトでUPした記事をリライトし再考しています。
野球ファンの方は、オフシーズンに入り物足りない思いで夜を過ごしていることでしょう。
インシーズン中は家に帰り、契約している有料チャンネルやスマホを介して好きなチームの試合を観るのを楽しむ。
たまに同じルーティンでテレビをつけると試合がなく、「ああ、そうかぁ。今日は月曜日だ!試合なくてつまんないなぁ」となったりする。
…私も一野球ファンとしてお気持ち、よくわかります。
ただ逆にいうとプロ野球選手たちはインシーズンはほぼ毎日試合をしているわけです。
これ、当たり前ですがとても大変なこと。
弘田もプロ野球チームに所属しているときはゴールデンウィークなんて大嫌いでした。休みなく9連勤、それもナイター明けのデーゲーム、というパターンの連続。
トレーナーや用具係、通訳などのチームスタッフにとっても、ほぼずっと球場にいる状態が続くわけですから…。
アメリカにおけるメジャーリーグベースボールでは、移動は完全貸し切りの飛行機移動がほとんど。
手続きなども基本はチームレベルで行うため、試合終了後バスに乗り込むと飛行場の飛行機そばまで直行。
移動中は各々がリラックスして過ごせるよう、最大限配慮がなされています。
MLBで活躍した岡島秀樹さんに伺って面白かったのは、チャーター便の質や特徴は球団によってまちまちなところ。
アスレティックスではすべての席がファーストクラスのように改良されており、意外なことにレッドソックスは通常タイプを買い取ったものをそのまま使い3席を1人で使う程度。
その代わりRソックスでは家族サービスが非常に充実しており、同じ移動機で家族も乗って行くことが出来るそうです。
…さすがスケールが違うなぁと感じてしまいますね(笑)。
何となく暗黙のメジャールールもあって、メジャー在籍期間が長い実績のある投手は例えシーズン途中からメジャー合流した場合でも、特にいい席を勧められるそう。
こういった文化、知ると面白いですよね。
それに対して日本では特に繁忙期の移動は大変。
大きな体の選手たちが一般の方たちに紛れて、飛行機の普通席に体を押し込んだり、人波であふれている東京駅や新大阪駅を、スーツケースを転がしながら移動するのはとてもストレスになります。
この違いだけでも1シーズン通しての疲労感は全く違うはず。
アメリカでもマイナーリーグでは10時間超えの長距離バス移動や一般の方と同じ飛行機での乗り継ぎ移動ですから、メジャーリーグ以外は日本のほうが条件はいいのかもしれませんが…
弘田が所属していたチームは当時ボビーバレンタインという外国人監督でした。
MLBでの経験も豊富なボビーは、春先から金曜日のナイター明けの土曜日のデーゲームの際には、試合前のノックを取りやめにしました。
当時の技術コーチにとっては驚きだったようで、反対意見もあったそうです。
ウエイトルームでバイクを漕ぎながら、ボビーが
「各球場の形状を確認するにも、練習の為にもしないよりした方がいい、ってそれがプロか?球場入りしたら、各自自分のポジションに関わるところ(外野の右中間や左中間の深さやフェンス、ファールグラウンドの広さなど)はチェックするのが当たり前だろ。」
「プロ野球選手になって一軍登録された選手が一日守備練習をしなかったからって下手になるのか?」
呆れたようにそんな風に言っていたのが、とても印象的でした。
ずいぶんとこういった合理的な考え方も浸透してきて、NPBのチームの中でもこういった工夫をするところも増えてきているようです。トップの考え方がこうならないと、なかなか変えられるものではありませんからね…。
これ、プロだからそういった見方もできるんでしょ?そう思われるかもしれませんが、ちょっと視点を変えて考えてみましょう。
ぶっつけ本番、負けたら終わりのトーナメント形式を戦う場合。何が何でも全体でのノックは省けないところかも知れませんが、大切なのは試合そのもの。
試合にいい状態で入ることが試合前練習の目的のはず。
連戦が続く公式戦。アマチュアでもそういったケースがほとんどのはず。試合前に張り切り過ぎて、集中力が落ちた状態で試合が始まるということは本末転倒です。
チームの状況によって思い切って打撃練習をカットしたり、全体ノックをカットし希望者に個別ノックを確認程度に行う。
そういった工夫も必要だと思います。
2017年11月に観戦した社会人野球の日本選手権。
前の試合が終わった瞬間にようやくグラウンドに出れる選手たちの姿を目の当たりにして、
「ああ、こういう状況だったら試合前の全体ノックだけは必須だなぁ。」
と感じました。
この例を聞くまでもなく当然いろいろな状況があるでしょう。
しかし指導者が「いつもこういう風に準備するのだから、するのが当たり前だろ」、選手たちも「試合前にノックがあるからいいや。最初はサードからゴロ捕球しての一塁スローから始まるのが普通だろ」とまったく頭を働かせずに習慣としてグラウンドに出ているとしたら。
一種の惰性になっては意味がないだろうと思っているんです。
また移動時に思わぬ渋滞に巻き込まれ、ろくに練習も出来ずに試合時間直前に会場到着、というのはプロアマ問わずに年に数回起こりうるアクシデント。
そういった不測の事態に備える意味でも、オープン戦や練習試合から「敢えて」打撃練習カット、全体ノックカットを突然する。
いつも全員で行う15分程度のアップを各自アップ10分で!という指示の下、できる準備をさせる。
こういった変化をつけた練習をさせておくことも、適応能力をあげる訓練として効果的でしょう。ぜひトライしてみてはいかがでしょうか。
疲れを考慮することだけではなく、心身ともにフレッシュな状態で選手を試合に臨ませること。これは全てのスタッフ共通の目的の一つ。
甘やかすのではなくて、考慮する。依存させるのではなく自立させる。
そういった意識を常に忘れず、グラウンドに立っていかないといけませんね。
・プロ野球やMLBでも移動時間が多い
・日本のプロ野球チームの移動は新幹線、飛行機どちらも貸し切りはない。疲労が溜まりやすい
・試合前練習で考えるべきは「何を優先すべきか」。習慣や惰性で行うのは疲れるだけでもったいない
・十分な試合前準備ができない事態に備えて「わざと」一部の練習をカットしたりアップ時間を短くするのも有効な訓練