コンディショニングコーチとしてプロ野球選手や社会人ラグビー選手など、アスリートを600人以上指導してきた弘田雄士です。
S&Cが準備するプログラムを何となくやり過ごし、皆と違うプログラムをやりたがる選手は、チームに必ず一人か二人はいるもの。
この状況でどうしたらいいでしょうか?というリアルな質問を受けることが多いです。
私なりの考え方と対応方法をお伝えしましょう。
なぜやらないかを考える
この問題を考えるには、その選手が「なぜやらないのか」を考える必要がありますよね。
その理由によって考え方は変わってくるはずです。
1.納得していない
最初に考えられる理由が納得していないというもの。
「なんでこのプログラムをやらなくちゃいけないんだ!」と選手側が納得していない場合、その理由も2つに大別できるでしょう。
a.こちらの説明/コミュニケーション不足
1つ目が専門家であるS&C担当やアスレティックトレーナーの説明不足。
「なぜこのプログラムを作成したのか」というWHYの部分が全く相手に伝わっていないとすると、なかなか前向きに取り組んでもらうことは難しいですよね。
この場合、主たる責任はこちらにあります。
[box class=”blue_box” title=”わかりやすい説明”]「今は基礎筋力を向上させる時期で、シンプルな種目を多い回数行いたいんだ。大事な準備期であるこの6週間の過ごし方で、次の最大筋力アップ時期が変わってくるから。地味な時期だけど、コツコツ頑張ろう!」[/box]こんなコミュニケーションを密に取ることで、問題は改善されていくはずです。
b.現状に不満がある
アスリートスポーツの現場で、切ないけれど最も多いのがこのケースです。
もはやトレーニングやアスレティックリハビリテーションではなく、現状のチーム内の自分に不満がある。
その不満の原因を自省の方向に向けておらず、他責の気持ちが強い状態。
ある程度年令を重ねており、それなりの実績のある選手が陥ることが多いです。
こんな実績の選手でもっとややこしいのは、「そんな基本的なこと意味ないよ。俺はもっと効果あること知ってるよ」と自己顕示欲を満たしたい意図も混ざっていることがほとんどという点。
若い選手は新しいものが好きだし、実績ある先輩のことは真似したいもの。
混乱させる要素が増える部分はある。
— ひろたゆうじ@アスリート指導500人超えスポーツ現場トレーナー (@yuji163) November 24, 2019
Twitterでもツイートしましたが、ちょっとした自己顕示欲を満たしたいがための「スタンドプレー」。
意志の弱いタイプの若い選手などは、こんな先輩の「オリジナルプログラム」を崇拝し、あらぬ方向へと導かれていきがち。
こうなってくると、ちょっとしたコミュニケーションではどうにもならないですよね。
「僕、前のチームからやっているルーティンがあるんで、その方向でトレーニングしてもいいですか」
ぐらいの調子のいい『はぐらかした』理由を述べてくる選手は今まで星の数ほど見てきました。
…さてどうしたらいいでしょう。
私なりの傾向と対策は後ほど述べるとして、その他の「やらない理由」を考えてみましょう。
2.自分の形ができている
「やらない」から悪い!!というわけではない。
普通に考えればわかるはずのこのパターンも、しっかり頭の中に入れておかなくてはいけません。
今まで試行錯誤を重ねてきて、最終的に「自分なりのベストウェイ」とも言えるやり方を確立している選手もいるからです。
ベテランの領域に入っている選手には多いパターンでもあります。
こういった選手と前述1bの選手との見極めは、最初からできたわけではありません。
まずはその選手が行っている、チームプログラム以外に行っている種目やアプローチをしっかり観察。
選手の集中力を削がないタイミングでスッと近づき、「これ、前鋸筋緩める目的でやって
るの?怪我したときに教わったりしたとか?」などと尋ねる。
自分の引き出しを増やすことにもつながるし、否定するのではなく質問をされれば、その選手としても嬉しいことのはず。
だいたいはしっかりと教えてくれるもの。
そのアプローチに?の部分があっても、チームプログラムをやってくれている場合はもちろんOK。
その種目を入れたことで、チーム向けに用意したものの一部を省いたとしても、大きな流れが損なわれていなければそれも良し。
まるきりチームプログラムとは別物としてトレーニングをしたがる場合は話し合いの場を設けます。
定期的に行う筋力テストやフィットネステストで少なくとも現状維持ができること、他の選手への勧誘などを行わないことを条件にそのアプローチを認めることがほとんどです。
本人がうまくなろう、強くなろう、ケガを防ごうと思って懸命に考えて実施している意欲を削ぐのは得策ではないと思うからです。
その上で、
「このやり方だけだど、生理学的なこと考えると、徐々に◯◯の要素は落ちてくる可能性があるよ。△△と✕✕もこのアプローチに加えてみない?」
という提案を行うのが現実的です。
何で自分のトレーニングプログラムをさせたいのか
S&Cコーチであったりトレーナーとして、トレーニングプログラムを提供する側としては、正直皆同じプログラムを淡々とやってくれると楽ですよね。
でも、そもそも何で選手たちに自分が考えたプログラムを実施させたいのか。
「え、そんなの当たり前じゃ?」と思わずに、きちんと深堀りしておきましょう。
1.目的でなく手段
我々が頭から煙を出しながら必死に準備するトレーニングプログラム。
愛着もあるし思い入れも当然あるはず。
でも、それって選手たちにとっては関係ありません。
自分なりに最適であると判断したものを出すとはいえ、あくまでもチームとしての目的に対する手段として提供しているのがプログラム。
「自分の用意したものをやらせる」ことが目的化したらいけないんですよね。
2.仕事してる!という充足感は自己満足
提供するトレーニングを完遂してくれない。
ついついムッとしてしまう気持ちもわかります。
でも、その不満はどこからくるのかと突き詰めて考えると。
結局は「自分はしっかり選手たちにやらせている!」という満足感を得たいという気持ち。
そして「俺が考え抜いたプログラムを何でやらないんだ?」という一種の不安からくるものだと思います。
自分自身でさえも、チームや選手がよくなるための必要な手段である。
きちんと整理してそう捉えることができたなら、自己満足や不安に惑わさせることはなくなります。
基本的な対応姿勢は「放置」でいい
具体的な対応としてはどうしたらいいのか。
…放置でいい。
基本的な対応姿勢は放置でいいです。結論としてはこう考えています。
1のaとして前述した、説明不足による納得していないケースは積極的に改善案や話し合いをすすめないければなりません。
しかし自分のスタイルとして行う優先順位がある選手や、不平不満がある自己顕示欲の強い選手は放置でいいです。
その理由をツイートしています。
でも。
ちょっとこじらせた実績ある選手はアップデートできない。
結果、半年、一年というスパンで見ると同じことを繰り返すことになる。
漸進的過負荷がかからないのだ。
結果、成績は伸びない。伸びない選手に若手はずっとついていかない。
長期的に見ると、さほど悪影響をチームに与えない。
— ひろたゆうじ@アスリート指導500人超えスポーツ現場トレーナー (@yuji163) November 24, 2019
こじらせた選手は、周りの言うことを聞けない。
そもそもこの段階ではパフォーマンスもピークを過ぎていることがほとんど。
変えることができないのでもう長くはチームにいることができない。
残酷なようだけど、弱肉強食のアスリートスポーツでは当然。
だから自分はこのケースでは注意はしない。
— ひろたゆうじ@アスリート指導500人超えスポーツ現場トレーナー (@yuji163) November 24, 2019
提示プログラムをバレないように「流して」いるのを知りつつ流す。
報われない可能性が高くても、愚直に取り組む選手は必ずいる。
あの手この手で叱咤激励し、トレーニング習慣をつけるべき期待の若手もいる。
こういった人材にこそ時間や神経を注ごう。
結果的にそれが一番チームのためになる。
— ひろたゆうじ@アスリート指導500人超えスポーツ現場トレーナー (@yuji163) November 24, 2019
いかがでしょうか?ちょっとドライ過ぎるかもしれないけれど、自分はこう考えて、一貫した姿勢で臨んでいます。
プライドを傷つける必要はない
ちょっとこじれた実績のある選手ほど、更にプライドを傷つけられるような要素があると、一気にチームを分裂させる危険因子になります。
彼、彼女自身、深層心理ではすでに充分傷ついている状態。
これ以上、プライドを傷つける必要はないんです。
この状態の選手は、自分自身の感覚や状態よりも周りの目や雰囲気の方に過敏になっています。
こちらから適度に距離感を持っていれば近づいてこないものです。
お互いのために上手にやりましょう。
影響されやすい若手を意識的に離す
技術的なこととしては唯一、
「影響されやすい若手を意識的に離しておくこと」
は徹底しておきましょう。
仲間を作りたい、周りを巻き込みたいマインドになっている選手が真っ先に目をつけるのが、このタイプの選手だからです。
具体的には、若い選手たちだけを「このメンバーは指定強化選手だからな!きっちり監視させてもらうぞ~」と囲い込んでしまうという方法。
不自然さや嫌味なく実施することができるので、オススメです。
まとめ
ちょっと生々しくドライな話になってしまったかもしれません。
それでも、専門家として我々が注力すべきは、
・愚直に努力続けている選手
・きちんとした教育と正しい方
向の努力を習慣化すべき若手
でしょう。
我々が注げる有限の時間と知識をこういった選手たちに投下することが、チームや組織にとっても誠実になるのではないでしょうか。
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YUJI HIROTA
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