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専門家は目の前の事象を正確に観察せよ ~唐川投手のグラブの角度~

小さい頃からスポーツの現場ではよく言われている言葉に、
「しっかりと観察しろ」というものがありますよね。

勉強でも同じであり、この言葉を言われたことがある人は多いのではないでしょうか。

よく理解しているつもりでも、目の前で起こっていることをきちんと「観る」、しっかりと本当に観察する・観るということのできる人は少ない。

そんなふうに感じています。

「専門家であるならば、目の前の事象を正確に観察しよう」というお話を書いていきます。

父・弘田澄男の観察眼

「観る」ことを考えたとき、私はプロ野球選手であった父、弘田澄男との2009年のエピソードを常に思い出します。

2009年をもって私は千葉ロッテを退団することになるのですが、この年にはドラフト1位ルーキーとして唐川侑己投手が入団しました。

私が関わっていた選手で、まだ現役でやってくれている選手は数少なくなりましたが、今ではもうベテランになった千葉ロッテの唐川投手のルーキーイヤーだったわけです。

合同自主トレ以降、しっかりとトレーニングを積んで、基礎的な体力を向上させた唐川投手。球数を増やしていって、6月末の2軍戦に先発をすることがありました。この時は確か3回目の2軍での先発登板だったように記憶しています。

この唐川投手の登板に合わせて、当時横浜DeNAベイスターズでシニアディレクターという肩書きで仕事をしていた父・弘田澄男が唐川投手の視察で浦和球場に来ていました。

投げても5回までという予定で、5回90球ぐらいでいいピッチングをしたという記憶があります。唐川投手が投げ終わり、降板したことに合わせて、最後まで試合を待たずに父は帰ることになりました。

父は浦和球場のバックネットの方から見ていたのですが、球場を後にしようとした父から私へ提言があったんです。

唐川投手の2つの癖

「おい雄士。もう今年でたぶん、横浜を退団するつもりやから報告せんけど。

唐川投手な、いいピッチャーやけど癖が結構はっきりした癖が2つある。教えとくから、唐川くんに教えてやれ。

高校卒業したばっかりでまだ分からんやろうけど、簡単に直せるからな。」

そう言うわけです。

「牽制を投げる時の癖が100%あるからそれは分かる。あとカーブを投げる時のグラブの癖が分かる。

特にカーブを投げる時のグラブの角度は研究されてしまうと、なかなか直せないから今のうちに直してやれ。」

とのこと。

牽制を投げる時の癖っていうのはすごいシンプルで、必ず首を1回振ってしまうんですね。下にクッと、サインとか関係なく振ってしまうという癖がありました。

これに関しては、やはり牽制を今から投げるよという前にフェイクを入れたいという気持ちの表れだと思われます。

セットポジションに入ってから首を1回下にクッと下に振ってから牽制を投げる。この試合の中で、彼は4回牽制を投げたのですが、すべて首を振ってからでした。

それを聞いて、過去2回の先発登板のビデオも確認してみると、1回だけ首を振らないで牽制を投げていましたが、それはセカンド牽制でした。

ファースト牽制に関しては100%首をクッとやってから投げるという癖がわかったわけです。

これを唐川に伝えると、無意識でしたと言っていました。その後、意識するとすぐ直るものなので、ありがとう教えてくれてという話ですよね。

問題はカーブですね。カーブを投げる時のグラブの角度が違うと言われて、父親がやってくれたんですが…。

本当にわずか、ちょっとだけ…3~5度ぐらいだけグラブの先っちょがですね、先端が立つんです。

他にストレート、スプリット、チェンジアップという球種を投げていたのですが、そういった球種を投げる時に比べると少しだけグラブの先端が立ち上がる。

上に向かって、少し手首が立つ形になるというのが分かりました。

このカーブの癖(グラブの角度)は、肉眼でぱっと見て判断がつくような違いではなかったんですが、ビデオで見たら確かにわずかに違うというのは分かりました。

最後の1イニングに関しては、多分我慢しきれなかったのでしょうね。

投げている時に「雄士こっち来い」と父からバックネットに呼ばれて、真後ろから唐川投手の投球を見ていました。

その時に、「はい次カーブです。はい、カーブです。カーブです。」

5回に投げた3球のカーブすべてをグラブの角度で投げる前に当てられて、全てカーブということが分かりました。

やっぱりプロが見たら分かるんだねと言ったら、
「こんなもん分からんかったら話にならんやろ。」
と言われたんですが…。

先ほど述べたように、確かにちょっとグラブの先の角度が違っているぐらいのわずかな差だったんです。

プロとして生き残るために養った観察眼

こういったわずかな変化を癖として読み切って、163センチの体でプロの世界で生き抜いてきたんだな、と感心し感嘆した記憶があります。

唐川投手にこのことを伝えると初めは信じなかったんですよね。

「僕、グラブとかそんな初歩的なことしません。」なんて言っていました。

そう言っていたんですが、「だって本当に当たってたもん。俺はパッと見てもよく分かんないけど。」とか言いながらビデオを見て、少しずつ直していきました。

「すごいですね。そんなとこ見てるんですね。そんなに違います?」

なんて言いながら、それでまた唐川投手とコミュニケーションが取れた記憶があります。

父は大矢監督の時代に横浜DeNAのヘッドコーチをしていて、癖盗みの名手でした。

あまりにも巨人のサインがバレて、エンドランや盗塁が読まれてしまうということがあったそうです。

当時の監督の長嶋茂雄さんが、なんでこんなにうちのサインはバレているんだと仰ったら、どうやら弘田が昔から癖盗みが得意で、どっかでわかっちゃうそうです、とコーチの一人が答えたとか。

それなら横浜をクビになった段階で、弘田を引き抜いちゃえということで、外野守備走塁コーチとして巨人に呼ばれたというエピソードがあるほど、観察する、癖を盗むということが得意だったんですね。

「見る」ではなく「観る」「視る」

ただ見るのではなく「観る」。そして、内在するものすら探すような意識で「視る」。

「みる」のレベルを深めていくことによって、そのレベルを高めて日々丁寧にしっかりと観察していくこと。

私のような動きを見たり、トレーニング指導をする専門家としても大事なんだなということがよく分かったエピソードでした。

私自身、日々そのことに気をつけて、意識を高めて本当に全集中でしっかりとみることを意識しています。ぜひ皆さんも、全意識を集中して観察することを習慣化してみて下さい。

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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