この記事では「怪我からの復帰計画がずれ込むホントの理由とは」というお話をしていこうと思います。
誤解を恐れずに書くためちょっと反応が怖いところではありますが、今の私の偽らざる本音、ということを考慮してもらいながら読んでいただければ嬉しいです。
怪我からの復帰計画はなぜずれ込みがちか
選手の怪我復帰計画。
トレーナーチームとしては、非常に神経を使い頭を悩ませるテーマです。そもそも個人差がある復帰計画を正確に見積もる、というのは至難の業。
しかしこの計画が常に遅れてしまったり、全く当てにならないとなってしまうと、監督やコーチは困りますし、何より選手の焦りも大きくなるもの。
本当に難しいんです。
私なりに今考えている、いくつかの「計画がずれ込む理由」を考えてみました。
理由1.医師の全治◯◯ヶ月と復帰できるレベルとがずれている
初歩的な問題としては、医師の判断が「あくまでも一般生活を痛みなく送れるレベルとしては」という定義での全治◯◯ヶ月を提示することがある、というものがあります。
スポーツドクターと呼ばれるお医者さんでも、目の前の選手が以前と同じレベルのパフォーマンスができるようになるまで、どれくらいかかるのかを見積もることができる人はいません。
全治1ヶ月、と医師が言ったとしても「根本的な痛みがなく運動を開始できる目安」として伝えていることはよくあります。
怪我の部位や症状によりますが、そこから本格的なジョグを開始して、基本動作では制限のないウエイトトレーニングを始めて…となると。チーム練習合流まで+3週間といったパターンは当たり前にあります。
その部分の見積もりも含めた復帰計画を、ヘッドトレーナーは提出しなくてはいけないわけです。
理由2.選手のタイプによって進行度が大幅に違う
最初の理由は、現場に携わるトレーナー関係者であればよく理解していますから、基本的には避けうる問題です。しかし、選手個人のタイプによる進行度という部分は、正直見立てが難しいものです。
特に内向的であり、かつ慎重な選手(私は「視覚型」選手と定義しています)に関しては、痛みのセンサーも敏感な傾向にあります。
私の勝手な見立てですが、MLBで活躍する大谷翔平選手とNBA日本人選手の代表格である八村塁選手。全く同じ怪我をしたとして、復帰プランは大谷選手の方が早く進むのではないかと思います。この二人のタイプが全く違うように見受けられるからです。
大谷選手は外交的であり、かつ感覚型の選手。信頼するトレーナーから「この数値がこれ以下だったら、ちょっとの炎症が起きても大丈夫。どんどんリハビリしよう!」と言われたら基本挑戦するタイプだと感じます。
一方で八村選手は自分自身の身体のセンサーに敏感。思った以上に疼痛がある、ドクターからの説明に少し不信感が残った、などの理由により、プラン通りに進めていくことにストップをかけたり、より慎重になることが推察されます。
これ、どちらかが良い悪いという問題ではないんです。あくまで個人差。気質や性格も踏まえたうえでの違いなので、これらを加味した上でキチッとしたプランを立てるのは極めて難しいんです。
理由3.リハビリがきちんと「効いていない」
今回のブログ記事の本題は実はここです。辛口にはなりますが、日本のスポーツ現場に従事していて、復帰に絡んで一番問題だよなと感じている点。
それが、シンプルにリハビリ種目がきちんと「効いていない」ことが多いのでは、という部分です。
アスレティック・リハビリテーションやアクティベーションと呼ばれる、低負荷での筋肉の動きを活性化したり、筋肉を強化したりするトレーニング。
これに関して「トレーナーが選手にやらせているものの、効かせられていない」ということが多くある、と感じるのです。
なぜそんなことが起こるのか、と考えると、シンプルに「トレーニングをみれない人が多いから」という可能性があると思っています。
もちろんリハビリの際、マンツーマンでやっている様子だったり、回数をこなしているか、狙った動きになっているかというのは見ているんです。見てはいるんですけれど「分かっていない」ので、思ったところに効かせられていないんです。残酷かもしれませんが、こういうケースはかなりあります。
選手もアスリートではあるものの、その動きでリハビリテーションをしたり、アクティベーションすることはあまり経験がないもの。「これで本当にいいのかな?」という半信半疑のまま、とにかく言われた回数だけをしっかりこなしているといった選手の方が圧倒的に多いです。
この原因を深堀りしてみると、トレーナーは一生懸命勉強をしているし、いろんな知識を入れながら、手技などの経験は積んでいっている。
しかし、アスレティックリハビリテーションやトレーニングに関しては、ほとんど自分でやったことがない。自身の身体をもって、効かせられた実体験というのがないからではないか、という結論に至りました。
やっているのを見たり指導はしているものの、なんとなく見ながらの見よう見まねの状態になっているという感じ。
結果的に、選手自身もやっていることの意義が理解できていなかったり、本当に狙っているところにしっかりと効かせることができていないという状態が起きてしまいます。
私はテーピングや物理療法などは専門外であり、できません。そんな私から見てオールマイティーな能力を持つアスレティックトレーナーに対して、ここまで求めるのは酷だと思います。
しかし、トレーニング系の動き、アスレティック・リハビリテーション的なところに関しては、まずは自分がやって体感した経験がないと、きちんと効かせる指導はできないのは間違いがないんですよね。
まとめ
S&Cコーチやアスレティックトレーナーだけではなく、理学療法士であっても、実際にスポーツ指導をしている方、半ばボランティアでされている教員の方も一緒。
まずは自分でやってみて、経験を積んでいく中で、ある程度こういうものなんだなということが腹落ちしているもの。これだけを紹介するというふうにしないといけないですよね。
全く感覚が分からないものを取り入れる、それを教えるということは他の専門でも全くないのはずですから…。
スポーツ現場のトレーナーは、手を抜いていたり、復帰時期を甘く見積もっているわけではありません。一生懸命やられていますし、ものすごい労働時間・拘束時間の中で働いてくれています。
あれもこれも求めるのはお門違いだったりもするんです。
だからこそ、環境や予算が必要になってしまいますが、リハビリの初期からであっても、コンディショニング系が得意なのであれば、アスリハはS&Cコーチにお願いする、スポットで理学療法士の力を借りる、といった施策も考えるといいかもしれませんね。
今回は怪我からの復帰計画がずれ込む理由に関して、考えられること3つをシェアさせていただきました。特に3番目の「やっているけど効かせられていない」は日本の現場では、多く起こっていることではないかな、ということで問題提起をしてみました。
皆さんの参考になれば嬉しいです。
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YUJI HIROTA
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