KISSの法則。もともとはロッキードスカンクワークスの技術者のケリー・ジョンソン氏によって造られたとされる言葉。
“Keep it simple, stupid” と解釈されますが”Keep it short and simple” (簡潔に単純にしておけ)という意味で使っていたそう。
…私は自分自身への戒めの言葉として唱えているので、「シンプルにしておけ!この間抜け!!」と捉えています(笑)。
2018年3月に行ったNSCA南関東ADセミナーにおいても、この概念についてお話ししました。
チームスポーツのプログラム作りの勘どころ ダイジェスト
主にチームスポーツに携わることが多い私が、このコンセプトを常に念頭に入れている理由。今回の記事で深掘りしていきたいと思います。
まだ20代前半だったころ。アメリカ留学時代のインターン先。施設のヘッドS&Cコーチがおっしゃった言葉が印象的でした。
「アスリートは、リフティングのプロではない」
ああ、当たり前だけど正にその通り。すごく腑に落ちたんです。
トレーナー、特に私のようにストレングス&コンディショニング(S&C)という、トレーニング指導をメインとしている専門家。
実技デモがきちんとできないと話になりませんし、ストレングストレーニングの正しいフォームやスピードトレーニングでの実際の運用などは時間をかけて学ばなくてはいけません。
そんな専門家にとっても、オリンピックリフトや全てのトレーニングを正しく行うことは難しいです。
S&Cは、実際のフィールドやコートでの活動に役立つのか?
そう聞かれたらもちろんYES!です。
しかし、それは選手の成長にとって最も重要なことか?
そう聞かれたら絶対にNO!ですよね。
S&Cは効果的で大きなパーセンテージを占める手段ですが、目的にはなり得ません。目的になるのはオリンピックリフターのみ。
彼らが四六時中、高い精度と再現性を求めて探求しているリフト種目を、手段として行っているアスリートが完璧にはできないし、できる必要はないのです。
本当にごく当たり前だけど、つい見逃しがちなこの事実。
自分へのリマインドとして「KISSの法則だぞ!」と唱えることは、効果的で実践的なプログラム作成のための一つの道しるべになります。
チーム単位で行うトレーニング。パーソナルトレーナーとして1対1の指導ができれば問題ありませんが、実際に個人を見る時間は限られています。
スポーツチームを管轄していて最も防ぐべきはケガなのですが、ケガの発生の仕方にもレベルがあります。
1.試合中のケガ
重症化するケースが多いですが、突発的であり未然に防ぐのは難しいもの。不可抗力的な要素となります。
2.技術練習中のケガ
S&C担当として未然に防げる可能性が大きいもの。疲労度や全体ボリュームなどを管理することを徹底しなければいけません。
3.トレーニング中のケガ
いわゆるフィットネスやストレングストレーニング中のケガです。アメフトやラグビーなどでは費やす時間も一番多くなるため、仕方がない部分もあるもののここでのケガが一番ダメです。
S&C担当としては「トレーニング中のケガ」は最も避けるべきところ。手段として行っているもので大きなケガを発生してしまっては、本末転倒なわけですから。
しかしながら、トレーニングの大原則、「漸進的過負荷」は常に必要。何らかの普段以上のストレスはかけなくては効果は望めません。
このバランスが難しいところなんですよね。
KISSの法則はここでも生きてきます。出来る限りシンプルで安全に運用できるエクササイズを選択すること。
時期にも依りますが、負荷のかけ方は重量やtempo、基礎的動作から徐々に発展させた支持基底面の減少(両足から片足といったように)をできるだけ活用。
多人数が同時に行うトレーニングだからこそ、シンプルに。KISSの法則に則ってプログラムを考えることで、トレーニング中のケガを最小限に抑えることができるのです。
選手育成のための包括的なプログラムを考えるとき、トレーニング種目を手当たり次第プログラムに放り込めばいいというものではありません。
KISSの法則にしたがって、「何で戦うか」を選ぶ必要があります。
ストレングストレーニングに関して、私がお気に入りの種目がいくつかあります。年齢や能力に関係なく、チームスポーツではおそらくこれらの種目をメインとして、プログレッションやリグレッションを行っています。
・チンニング
・デッドリフト
・プッシュアップ
・インバーテッドロウ
・ゴブレットスクワット
・リアランジ
・ヒップスラスト
・オーバーヘッドMBスラム/スロー
今後、ブログやメルマガ(今一生懸命作っています…)などでこれらの種目1つ1つのポイントやプログレッション/リグレッションなどを紹介していこうと思っています。
私がKISSの法則を大切に考えている理由を短めにですがまとめてみました。
・手段であるトレーニングを思い返させてくれる
・多人数が同時に行うチームスポーツで、トレーニング中のケガのリスクを下げてくれる
特に物事を考え始めると、つい深く細かく考えがちなタイプの私のような人ほど、「羅針盤」として役立つコンセプトだと思います。ぜひ活用していきましょう!