握力と指力の違いを知ろう

公式戦シーズンが終わった直後のこと。

定期的にトレーニング指導を行っている、社会人野球チームの投手から受けた質問がありました。
「握力が弱いので、鍛えたいんです。40ちょっとぐらいしかなくて…」というものでした。

今回はちょっと細かいですが「野球においては握力よりも指力が大事ではないか?」という記事を書いていきます。

握力と指力って違う

質問してくれたピッチャーに私が答えたのは「なんで握力がいるの?」と話を問い返しました。

「スライダーであったりフォークボールであったりと、指をしっかりかけたり挟み込んだりする力が、どうしても落ちやすい。特に50球60球と投げていくとだんだん握力がなくなっていうのがわかるんです。その為にそもそも握力を測ると42kgしかないので、握力を鍛えたいんです」

と言うことでした。

もちろん握力そのものを鍛えたほうがいいこともあるのですが、そこで私が彼とやった簡単なチェックというのが、両手の指をまっすぐにした状態で、手を組み合うもの。文字で書くのは難しいんですが、バッテンみたいにするということですね。(画像参照)。

その上でお互いに私の右手と彼の右手の利き手を合わせて挟み込み「指をまっすぐにしたまま俺の指を思いっきり潰して挟んで!」といいました。

結果的にすることというのは指の側屈で、手指を折り曲げる。指を曲げるわけじゃなくてまっすぐにしたまま添える。特に4指に関しては寄せる動きになりますが、これがすごく弱かったんですね。

なかなか握力計みたいなもので測るのは難しいのですが、特にピッチャーの投げるとき、リリースの時に使う力というのは、この「挟み込む力」と「中指と人差し指を使って指を反らさないこと」です。

 

上記写真は、現役引退するシーズン直前の上原浩治投手の合同自主トレでのキャッチボールの様子。人差し指、中指の使い方が本当にキレイですよね。

簡単に指を曲げずにグッと溜めた状態で、最後のボールを離す瞬間は人差し指と中指で引っ掛けて投げることになる為、その指が負けないように反らさないでぐっとこらえる力。細かい力ですが、指力が大事になるんだよという話をしました。

テストしてみると彼はその力が弱く、そもそもそこの意識が弱かったわけです。まずは地味でリハビリみたいなレベルですが、その指を挟み込んだり、特に中指と人差し指を使って反らないようにして抵抗をグッとかけてそれを堪えて10秒堪えてというような、アイソメトリックと言われる種目を教えたりしました。

 

打者でも握力より小指側からの挟み込みが大事

筋力と握力の相関性は高いという論文結果もけっこうあるので、一般的に握力が強い選手というのは筋力も強いものです。

しかし打者に関しても、単純な握力が必要なケースっていうのは実は少ないもの。バットを使ってスイングして、そのスイングの力をボールに伝える力を考えた時には、マニアックですが握力の中でも「小指側から挟み込むような力」というのが特に重要になります。

バットを握る時というのは、(人差し指)そもそも握る時にあまり親指を使ってないのはわかりますか?

4本の指で巻き込むように持ちますが、どちらかと言うと力が入っているのは、小指薬指寄りになります。このように挟み込んでグッとインパクトの瞬間、小指側から力を入れるようなそんな独特の使い方の力が必要になります。

握力こそ向上させるべきケース/気をつけたいトレーニング

例えば、ピッチャーで血行障害などによって握力低下が著しいという場合。元々55~60kgなどあった握力が、急に35kgや40kg届かないといったケースに関しては、やはりリハビリの強化として握力強化を続けていくことが大事。

前に比べて明らかに落ちていると、他の部分に負担がかかっていることが多いですし、直結している肘に負担が大きくかかるため、まず握力を以前のレベルに戻したいです。

握力のグッと握る力、前腕の力というのは、肩甲骨を固定する力にも繋がっています。ですので、あまりにも握力が弱いと、肩周りを固定する力が弱くなってしまいます。

また、ボールを離していく時の引き延ばされる力に対して、グッと肩を押し込む・固定させるような力も弱くなってしまうため、やはりレベルに応じて握力を鍛えることは大事です。

ただし、「じゃあ握力はどんどん鍛えた方がいいよね」と言って、リストカールやリストエクステンション、回内・回外などといった種目をガンガンやりまくるのはオススメしません。

大事な補強種目ではあるものの、前腕を強化する種目をやりすぎることで、前腕が大きくなるのは避けたいからです。

体幹>上腕>前腕が理にかなっている

トレーニーや体を鍛えている人は前腕が結構パチパチで太くカッコいいという印象がありますよね。でも、アメリカのメジャーリーグのピッチャーなどをみると、あまり前腕が太い人は多くないはずです。

あれには理由があって、基本的に体幹部・体の幹の部分が太く末梢に近づけば近づくほど細くなっている方が、体の使い方としては負担がかからないからなんです。

よく木の枝で表現しますが、幹よりも木の枝の先端が太い木なんて絶対にその枝を折れるじゃないですか?重たいわけですから。

先に伸びていけば行くほど細くなっていくというのが、人間の体でも理にかなっています。投手は、

・下半身からエネルギーを生み出し
・ムチのようにひねり出すことで体幹部を介してエネルギーを上半身に伝え
・肩を回し腕を振って指先からボールを離す末端にまで繋げていく

という動きになりますから、やはり自然の摂理に伴って、先に行けば行くほど細い方が有利なんです。そうでないと、なかなかしなりを活かせませんし、負担も多くなります。

だからこそ「強化とやりすぎないバランス」を繊細に考えていく必要があると考えています。

まとめ

・投手がピッチングに対して握力の弱さを気にしている場合、「握力」の問題があるのか「指力」の使い方に問題があるのか、確認する必要がある

・以前と比べて急激に握力が落ちている場合は、握力強化を優先してすすめるべき

・前腕強化も必要だが、やりすぎには注意。投球メカニズムを考えると負担が増したり、パフォーマンスを下げる原因になるかも知れない。

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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