トレーナー業界の知識って日進月歩。常識と教えられてきた知識がある日を境にガラッと変化したりします。
ここ5年ほどはそれほどドラスティックな変化は少なくなったものの、それでも日々新しい見地を入れられるよう、常にアンテナを張っているつもりです。
そんな気付きとなった、2016年に元ブログサイトでアップした内容をリライトしまとめたものをご紹介しますね。
最新の経口補水療法(ORT)ガイドライン
11月に入り急激に寒くなっていますよね。気温の急激な低下で発生しやすくなるのが、インフルエンザといった感染症やウイルス性胃腸炎。
小さいお子さんを持つご家庭では特に、ノロウイルスやロタウイルスなどによる嘔吐や下痢、脱水症状に直面することが多い時期です。
日本小児救急医学会は、『小児急性胃腸炎診療ガイドライン2016』の中で細かなガイドラインを発表しました。
中等症までの脱水の治療と予防においては水分や電解質などを速やかに補うORT(経口補水療法)を推奨する、というのをメインに置いています。
子供が吐いていても経口補水液は取らせるべき
経口補水液とは、電解質や糖質などで構成された溶液で、体液よりも浸透圧が低く(280mOsm/L未満)、十分な量の水分や電解質を補充するための飲料。
今までは嘔吐症状がある患者には水分を取らせないように、という指示をする医師も多くみられたそうです。
『今回のガイドラインが推奨するORTは、嘔吐や下痢の症状が表れたら速やかに開始すべき治療法で、
「脱水がある場合は、発症から4時間以内に不足した水分と電解質などを経口補水液で補う」・
「脱水がない場合には、下痢や嘔吐で喪失する水分や電解質などを経口補水液で補給し続ける」というもの。(小児急性胃腸炎診療ガイドライン2016)』
専門医によると吐いても、経口補水液なら失った分以上の水分が体内に吸収されることはデータで確認されているそうです。
その代わり、一度に多量を飲むとかえって吐き気を増長する可能性もあるため、嘔吐がある場合は5分おきに5mLずつスプーンやスポイトで飲ませることを推奨しています。
だんだんと吐き気が治ってきたら飲ませる間隔を短くしていくとのこと。
起き上がれない子どもには、誤嚥性肺炎を予防するため上体を45度程度起こして経口補水液を与える、という細かい指導法も書いてありました。
大切なのはナトリウムの摂取
勘違いしてはいけないのは、水分補給だけではなくて嘔吐や下痢によって体から失われる多量のナトリウムを補うことが大切であるというところ。
最悪のケースでは低ナトリウム血症(いわゆる水中毒)を引き起こしてしまいます。
推奨されている経口補水液のナトリウム濃度は40~75mEq/Lであり、ガイドラインでは40mEq/L以上を根拠のあるものと定義。
そしてブドウ糖の濃度が小腸からの電解質や水分の吸収に関与していることもわかっているため、経口補水液の組成は、ナトリウムとブドウ糖のモル比を1:1~2にするのが理想なのだそうです。
ウイルス性胃腸炎による嘔吐や下痢に備えて、家庭に経口補水液を用意しておく場合は、このガイドラインの推奨にあったものを選んだ方がいいでしょう。
大塚製薬のOS-1や明治アクアサポートなどが具体的におススメ商品となりそうです。
風邪による発熱時などとは違いジュースなどは避けるべき
発熱時などは口に入れられるものでいいよなどと言われますが、嘔吐や下痢症状のあるウイルス性腸炎の場合は、炭酸飲料や市販の果物ジュース、甘いお茶、コーヒーなどはガイドラインで「避けるべき飲料」と示されています。
甘い果物ジュースなども浸透圧が高いため、下痢を誘発する可能性があるのだそうで、個人的には気をつけないとなぁと思いました。
最大心拍数の新しい計算法
次のテーマは心拍数。正確性にはまだ欠ける部分はあるものの手首型のHRモニターもずいぶんと認知が広まってきましたが、今回は最大心拍数に関して、私が知らなかった公式を知ったので、そのご紹介を。
私は簡易な目安として大学時代に教わった【220-年齢】という式を長らく使っていました。
あくまでも目安ではあるものの、高齢になればなるほどちょっと抑えすぎじゃないかなぁ…とは感じていたんです。
安全かも知れないけれど、いくらなんでも低くない?という感じだったんですよね。
世界的に広まっている今回の公式、実はあまり多くの文献を参考にしたものではないんだよ、というエピソードは恥ずかしながら、全く知らず「へぇ~、そんなことあるんだな…大学で教わったからって鵜呑みにしちゃいけないなぁ」と改めて感じました。
最大心拍数の新しい公式として紹介されているのが【208-0.7×年齢】。
【220-年齢】の公式は最大心拍数を求めるのにちょっと不正確なんじゃないの?と唱えた方が田中弘文教授という日本人だったというのも、とても興味深い事実。
田中教授は運動生理学を専門とするテキサス大学の教授で長く研究活動を行なっている方。
田中教授は、比較的信用性の高い論文だけを集めて解析するという「メタ解析法」という方法で、なんと2万人近くに及ぶデータを用いたそうです。
その結果、最大心拍数を求めるのにより信ぴょう性の高い公式として【208-0.7×年齢】という計算方法を発表したんですね。
この計算方法で導き出した答えは、正確性において【220-年齢】の公式よりも上だったとのことで、アメリカではこの公式が頻繁に採用されています。
年齢が高くなるほど以前の公式との差が明確に
【208-0.7×年齢】は計算してみるとわかるのですが、30代ぐらいまでではさほど差がありません。高齢になるにつれて差が徐々に表れて、違いが出てきますよね。
55歳のクライアントを考えると、以前の計算式では最大心拍数の見立ては165。新しい公式を用いるとおよそ170と若干高めに。
これが80歳なら以前の公式だと140。新しい式では152。…うん、経験的にはこっちの方が現実に即しているような気がします。
リストバンド型のHRを測れる活動計を購入した55歳のクライアントさんへのアドバイスも、「最大心拍数の75%ぐらいだとちょっときついけれど、心肺能力が上がりますよ」ではちょっと不親切なはず。
最大心拍数ってどう測るの?という人の方が多いはずですからね。
「最近はこっちの公式のほうが広まっているんですよね~」なんて言いつつ、新公式でざっくりと「125~130ぐらいですね!」と伝えてあげると親切だし、より専門家らしいアドバイスに聞こえるもの。
さっそく明日から使ってみてはいかがでしょうか。
最新のRICE処置の見解
さて、長くなりましたが最後はアイシングに関して。
私が曲がりなりにも運動科学を学び始めたのは、19歳。当時教わったRICE処置(Rest、Ice、ompression、Elevation)は怪我の最初に行うべき処置として、とてもとても科学的に感じたものです。
あれから22年が過ぎました。私が携わってきたプロ野球の現場においても、特にアイシングの部分は常に議論の題材となってきました。
父が現役だった1980年代前半(父、弘田澄男は結構著名な元プロ野球選手です)は肩が冷えるといけないので、プールもやめておけ!という時代。
ジョーブ医師による肘の腱移植手術を受け、当時奇跡の復活といわれた村田兆治投手が、氷バケツに肘を突っ込むようになり1990年代には一気にアイシング神格化時代へ。
最新の知見として、現場に携わっている徒手療法家のレニーパラチーノが、「Kinetikos」サイト内にて、自身の考えを述べていました。
この説明が非常に腑に落ちて「ああ、そうだよなぁ」と強く共感したので、共有させてください。
レニーパラチーノのアイシングに関する見解
・鎮痛作用がある
・急性期の炎症がある場合は、アイシングをするのは決して悪くない
・アイシング継続時間には留意しなくてはいけない
・5分冷やしたら10分離す、10分冷やしたら20分離す、という1:2の比率で用いるべき
・しかもそのアイスを外している間は、アイソメトリックな収縮を行わせる事で、鎮痛効果と治癒過程を妨げない、という両方を得ることができる
・アイシングは治癒過程を遅らせてしまう
・典型的なRICE処置に関しては、提唱者のDr.本人が訂正した論文を書いている
・意外と盲点として見落とされているのは、アイシング頻度。できる限り多くアイスのプロセスを繰り返すことで、器質への変化を生み出すことができる 例)5分アイス→10分離す(可能ならアイソメトリック収縮を伴う運動)xできるだけたくさん!!
この見解はシンプルだけど、とても有効だと思います。もちろんご自身が研究テーマなどにあげている学術的研究者の方や、違う視点からもう少しIcingの効果を広げて捉えている人がいてもいいと思います。
大切なのは、思考停止にならないこと。「よく使った部位や疲労部位」→アイシング、という固定概念が一番恐ろしいこと。
自分なりのきちんとした定義とその理由付けは大切になりますよね。
まとめ
今回は元サイトで3つに分けてご紹介したコンディショニングに関わる新しい見解をまとめてご紹介しました。
なかなか贅沢な内容だと思いますが、自分自身改めて復習ができて良かったです!
・推奨された経口補水液を飲むことは吐いてしまった場合でも有益。きちんと体内に吸収されることは証明されている
・最大心拍数の新しい公式は【208-0.7×年齢】
・アイシングは鎮痛/炎症を抑えるために行うもの。1:1の割合で冷やすと離すを繰り返すこと。治癒そのものは遅くなると考えた方がいい
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YUJI HIROTA
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