ピッチングスマート。この指標がメジャーになっているアメリカは、少なくとも学生スポーツとしての日本の野球界よりも進んでいるイメージがあるのではないでしょうか。
投球制限が当たり前になってきているアメリカですが、実は皮肉なことにトミージョーンズ手術を受ける年齢は年々低年齢化しているというのをご存知ですか?
アメリカで著名な整形外科医がトミー・ジョン手術を執刀した高校生の数は20年前の年間1、2人から80、90人に急増しているケースもあるのだそうです。
有望な子供たちを早期から野球ビジネスとして取り込もうとしているアメリカの野球事情、ユースの頃から骨や靭帯に対して筋力が強くなり、平均球速が顕著に上がっている事実。
さまざまな要因が投球による故障、それに伴う手術に関わっているはず。投球制限なんて意味ないじゃないか!という安直な結論は避けなくてはいけません。
実際に米国のシンクタンクは1999年から10年間で500人近いユースリーグの投手を追跡。その結果、年間100イニング以上投げた子が肩肘を痛める確率は100イニング未満の子の3.5倍であるというデータもありますから、投げ過ぎを予防することは怪我や故障のリスクを下げるのに一定以上の成果を出しているはず。
そこで私が強く薦めたいのが「ジュニアやユース世代への投球制限を効果的に行うのであれば、暦年齢ではなく身体形態年齢をチェックしてから」という点です。
ジュニアスポーツにおいては、成長の度合いは個人差が大きいという問題。これにどう具体的に対応していくか今まで数多くの思考を重ねてきました。
これまで自分の経験則に頼った指導しかできなかったのですが、小俣よしのぶさんのセミナーを数回受講する中で、身体形態年齢という考え方を学びました。
両親の身長を考慮してKR2法やKR3法といわれる算出方法を使い、その子の最終的な身長を予想。
1年間に10㎝以上、身長が伸びる時期をPHV(Peak Height Velocity)と捉えて、PAH(パーセント成人身長)という最終身長に対しての到達度合を調べる。
暦年齢ではなく身体形態年齢をそこから判断し、その年齢を基に投球制限をかけていく、という一工夫。子供の数がますます減少していくこれから、ユースからジュニア世代には非常に重要なのは間違いないです。
今改めて感じること。それが成長段階にある子供の指導者こそ大人に対する指導やコーチの数倍も難しい、という事実です。
指導者には子供一人ひとりの発育度合いを判断し、身体の発達の違いを判断し対応することが求められるからです。そしてこの時期特有の怪我リスクに対する一定の知識も持っていてもらいたい。
技術的にまだ投げ方が未熟な投手には、将来リスクが少なくいい球を投げられるように40~50%の力でも一定量を投げさせる時期も必要でしょう。それに対して、投げ方は綺麗だが身体能力として投球制限をする必要のある投手も相当数います。この辺りの見極めと線引きもしなくてはいけません。
誤解を招く表現かもしれませんが、中学生ぐらいまでの野球選手達に対して勝利至上主義でないのであれば。
野球が大好きで経験者であるアスティックトレーナーやS&Cコーチが指導者になった方が、大器晩成型の選手を多く輩出できる可能性が大きいとさえ思っています。
非常にデリケートで深いトピックであるジュニア期における投球制限。「暦年齢で投球制限をする」だけでは個人差が大きすぎて期待する効果は得られないのは間違いないと思います。
身体形態年齢による区分けだけで、全て一定に投球制限をするというのも技術向上を重ねて「自分なりのコツ」を掴む必要がある子供たちに弊害もあるでしょう。
非常に難しい問題ですが、皆さんはどんな風にジュニア期の野球指導を考えていますか?
・投球制限を徹底していても実はアメリカでトミージョン手術をする未成年者は増えている
・投球制限に効果がないわけではなく、個別性を考慮する必要がある
・暦年齢ではなく身体形態年齢で区分けする方が効果的
・技術を高める必要がある選手には何でもかんでも投球制限してはダメ
・ジュニア期の指導者こそとても難しい