今回は「コンディショニングコーチ」という名称に込めている想いについて。
私は渡辺俊介投手のMLB挑戦のためアメリカに帯同。帰国後、2014年の5月末に近鉄ライナーズに中途採用していただきました。
その際の肩書は「トレーナー兼通訳」。
近鉄ライナーズでは2014年までストレングス&コンディショニング(通称S&C)コーチの事をトレーナー、Coメディカル系の業務やリハビリテーションにあたるアスレティックトレーナーを、メディカルトレーナーと呼んでいたんです。
途中合流の弘田が言えるようなことではなかったのですが、プロのレベルにない通訳補助という業務と共に、この「トレーナー」という名称が嫌で仕方がありませんでした。
理学療法士やアスレティックトレーナー、そしてS&Cコーチ。それぞれ専門性も違い、得意分野も違います。そこを一括りにされること。
自分のプライドとして、そして専門性を持つ本当のトレーナー方に対して、自分がトレーナーを名乗る事。それが耐え難かったんです。
2014年シーズンが終わり、近鉄ライナーズと交渉を進めていく際の条件の一つが、「コンディショニングコーチ」として契約をしてほしい、ということでした。
S&Cコーチでなく、コンディショニングコーチ。チームが外国籍のストレングス系に強いコーチと交渉中ということでしたので、実際には「ヘッドコンディショニングコーチ」として働かせてほしいと伝えました。
同業職の方、皆さんにそれぞれ強い想いがあるはずですが、私はコンディショニングコーチ、という呼び名にこだわりをもって今までやってきました。ストレングス(強化)はとても重要ですが、あくまでも数多く存在するコンディショニング要素の一つ。
スピードやフィットネス、柔軟性(どちらかというと可動性)やリカバリー能力など、包括的に教育し指導していく、というのがコンディショニングだと考えているからです。
一般的に、S&C専門家が雇用される場合、その目的は特定スポーツのフィジカル面での強化や教育になりますよね。
そうだとすれば、我々の業務は「考え得る怪我の少ない状態を提供し、選手のパフォーマンスアップを助けることで、チームを強くすること」と定義されるのではないでしょうか。
この定義を前提とするならば、すごく質の高い専門家であることは当然必要ですが、そもそも我々自体が『手段の一つ』と考えるべき。
この考えを前提として、もし私がストレングスコーチという名前で活動していたら。
極端かもしれませんが、手段としてストレングス(強化)要素が必要なかった場合、自分の存在価値はなくなってしまいます。
S&Cコーチでもいいじゃないか、という方もいるでしょうが、ストレングスをメインとしてのコンディショニング、というニュアンスが残ります。
どこまでいってもジムやトレーニングを通して、という限られた範囲を弘田は感じてしまうのです。
【追記】
自分自身が、野球という技術要素の強いスポーツに専心した学生時代を過ごしました。そのこともより「コンディショニング」という定義に惹かれ、こだわる一因になっているのでしょう。
チーム方針にも依ると思いますが、弘田のコンディショニングの定義からすると、ストレングス部門だけで年間計画を立てたり強度に変化をつけていく、ということは不自然。
S&C部門だけでも下半身中心のハードなストレングストレーニングがある日に、チーム練習内でフィットネス強化メニューが入っているのは、一日の刺激量としては多すぎる可能性が高いです。
GPSデータのフィードバックなどを鑑みて、技術練習の要素も考慮しS&C部分のバランスを考える。
必要であれば技術練習においても、人数を少なくフィールドを狭く制限する、実施時間を3分短縮させる、反応ドリルとハイボールキャッチのような加速からの技術練習を組み合わせることを提案する、といった介入もします。
アメリカ式で学んだS&C部門で私が感じた大きな違和感は「各部門がそれぞれの中で完結している専門性」でした。
チームを、そして選手を良くする手段の一つとして、コンディショニングコーチが行うべきこと。
それはストレングスコーチとの相互理解と補完し合ったメニューの作成だけでなく、監督や技術コーチとメディカルトレーナーのFacilitation(促通)役が大きいと考えています。
更に言えば選手とコーチ/メディカルトレーナーとのBuffer(緩衝材)のような役割も担っているはずです。
・選手のプレーの感覚や違和感をある程度把握し、その原因を共に明確にしていく。
・お互いに「こう理解しているはずだ」という誤解にさりげなく気づかせて確認しあう場を設ける。
・これぐらいの痛みでトレーナーに相談していいのか、という迷いに対して、コンディショニング部門の見地からアドバイスを行い、そのフィードバックをメディカル部門に共有する。
こういった役割を真ん中に置いたうえでのS&C部門における高い専門性の発揮。私がイメージするコンディショニングコーチの役割はこれなんです。
だからこそメディカル寄りの知識も、コーチングスキルも、パスやキック、タックルの感覚もある程度知っておかなくてはいけない。
現在でいえば、携わるラグビーチームにおいて「怪我のリスクを最小限に、パフォーマンスを最大限にする」ために抜け落ちた要素がないように長期的に関与していくことが大切。
Time will magnify all errors and omissions(怠けていたり抜け落ちた何かがあると時と共にその問題は大きくなっていく)を肝に銘じて、「木を見て森を見ず」にならないように、現場に立っているつもりです。
今回の内容、1年半ほど前に旧サイトに投稿。フェイスブックページにて大切なメンターの一人である、野球解説者でありJリーグ知事も務めていらっしゃる小宮山悟さんからコメントをいただきました。
「特化せず、全てをある程度理解した上で、どうする事が良いのかを決定するって意味でのコーディネーター。『コーチ』って肩書きが、適当とは思えないんだよね、そういったポジションの方々……。」
確かに!そこで小宮山さんが挙げて下さった名称が「チーフ・コーディネーター」というもの。
いいですよね。海外の企業などで使われる名称ですが、日本のスポーツ現場でこの名前で働いている人、私は今のところ知りません。
起業の考え方で大切なのは「新しい選択肢を作ること」、「ゲームのルールそのものを変えていくこと」だそうです。今までになかったポジションを創っていきたいのであれば、全く違う名前もいいなぁ。
手垢のついていない言葉を肩書きにしてしまって、既成概念やイメージを一から作っていけるのは魅力的なんて、今は思い始めています。
こだわってきた「コンディショニングコーチ」という名前に愛着はたっぷりあるものの、これも一種のコンフォートゾーンなのかも知れない。
こだわりの根底にある本質を忘れずに、ひたむきに、軽やかに変化していければいいなぁ。
・コンディショニングコーチにこだわっている理由は「もっと広範囲な関与をしていく専門家」でありたい、という思いから
・どうしても「コンディショニングコーチ」って呼ばれたい!というこだわりではない
・こだわってきた本質を考えるなら全く手垢のついていない名称もまた良し
・歳を取ってきたせいか一般の方に説明する時にはついに「ざっくり言えばスポーツトレーナーです」と説明しだして尖った部分がなくなってきた(笑)