HIITを考えるうえで知っておきたいストロングマントレーニング

*旧ブログにアップしたものをリライトしたものです。

競技によって伝統的なトレーニングや認知されているメソッドが違ったりすることに驚く。そんな経験は、複数のスポーツを担当しているS&Cコーチやトレーナーなら一度や二度はあるはずです。

ラグビーに携わり始めて、その認知度に驚いたものの一つに「ストロングマントレーニング」があります。

先日、HIIT(高強度インターバルトレーニング)と有酸素運動の関係性について記事をUPしました。(HIITだけやっておけば間違いんでしょ?というわけにはいきません参照)

HIITの一種と考えることもできるストロングマントレーニング。馴染みがない方に今回はストロングマントレーニングに用いられる典型的な種目やその目的について紹介していきますね。

 

一般的なストロングマンエクササイズ

スレッド(そり)やロープ、タイヤ、サンドバックやアクアバック、ケトルベルなどを用いて行うものが、ストロングマンエクササイズとしては有名です。

スレッドプッシュといって重りを載せたスレッド(そり)を肘を伸ばし体を低く前傾した状態でプッシュするような種目は一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

位置関係を逆にし胸部にハーネスを装着し爆発的に足を動かしてダッシュするスレッドプルという種目も有名です。大きなタイヤを用いて、デッドリフトの要領で爆発的に垂直方向へタイヤを押し上げ、反転させるタイヤフリップという種目もあります。

股関節伸展、膝関節伸展、そして足関節の底屈というトリプルアクションを促す複合的動作の種目として、私もとても好きなエクササイズの一つです。

ひっかけた大きなロープをリズミカルに波打たせながら叩きつけるバトルロープと呼ばれる種目も体幹を予想以上に使いつつ、握力強化や前腕の肥大を促す全身トレーニングとして有効でしょう。

私はこういった種目を複数組み合わせて、1種目45秒~60秒くらいのサーキット形式で用いることが多いです。一般的なジムでのストレングストレーニングから刺激を変化させる目的で取り入れるようにしています。

プレシーズンに1週間に1回ほど、チーム練習が少なく短い「弱日」に、スパッとやるイメージです。

心肺持久力要素も刺激しつつ、ストレングス部分の特に筋肥大も見込める。効果は実感しているストロングマントレーニングですが比較的新しい方法論で、科学的な研究結果がそれほど出ていない部分もあるんですよね。

2017年に入ってからNSCAジャーナルにおいて、このストロングマンサーキットの生理学に関する論文が紹介されていました。

私自身のアウトプットの意味も込めて、本日はその部分をシェアしたいと思います。

 

筋肥大系アプローチとして有効

最近の研究では、ストロングマントレーニングと伝統的なレジスタンストレーニングの比較が行われました。

当然両トレーニングは、バイオメカニクス的に類似したエクササイズがお互いに対応する構成となっていたそうですが、ストロングマントレーニング実行群は、伝統的トレーニング実行群と比較して、筋量がわずかに正の変化を示したのです。

筋が緊張状態にある時間が長いことは、筋肥大の向上に有効であることが明らかになっています。ストロングマントレーニングの形態が筋肥大に向いている点があるということなのでしょうね。

この目的で行うには8~12回で3~4セット、1RMに対して70~85%負荷の設定にすることが勧められています。コントロールできる限り、この設定の運動継続時間を30~60秒に設定することがポイントとなるようです。そのうえで筋肥大が目的ですから、休息時間を60~120秒はとることが必要。

タイヤフリップやケトルベルを用いたスナッチなどは負荷設定がそれほど難しくはないのですが、スレッドプルやファーマーズウォークといった移動系の種目は実際の負荷設定が難しいので、RPE(主観的疲労度)の設定を10段階で8~9程度にする、といった工夫が必要だと思います。

 

総合的なコンディショニングエクササイズとして活用するならば

この記事の中では、総合的なコンディショニングとして活用することも推奨。1セット1~2分のサーキット形式で、合計時間が20~30分となるように処方する。今回レビューを基にした論文の中では、こんな方法が勧められていました。

5種類のエクササイズを各60秒、そして1週ごとに1分の休息を入れるといった方法。この形式のトレーニングは、私が実際にラグビーチームにて行っているスタイルに似ています。

ただこのパターンは、代謝要素が大きくなるため、きちっとした回復時間を設ける必要があるのは頭に入れておかないといけないです。私はついつい何周か連続でやっちゃいがちなんでね…。

 

ストロングマントレーニングの限界

ストロングマントレーニングにも限界はあります。213名を対象にした後ろ向きの傷害疫学調査によると、ストロングマントレーニングを実行中のケガの発生率は伝統的なトレーニングの1.9倍を示したそうです。

特に受傷リスクは下背部に集中する可能性が高いため、リスク管理のための徹底した指導が必要。それでも多人数で行うことが多いストロングマンサーキット中に、怪我のリスクを避けることは困難。

この辺りのリスクを知ったうえで活用していかなくてはいけないです。

もう一つは適正な負荷設定。個人差だけでなく水平面のプッシュやプル動作のエクササイズでは、負荷と地面の間の摩擦などは計測が難しいですよね。タイヤフリップやバトルロープなどはアスリートによっては重すぎたり軽すぎたりで、適切に負荷をかけられなくなると効果は半減してしまいます。

こういったデメリットを頭に入れつつ、賢いタイミングでストロングマントレーニングを活用していければ、と改めて思いました。

 

まとめ

・サーキット系で行うことの多いストロングマントレーニングは名前があまり浸透していない

・コンバットトレーニングなどというところも

・ストロングマントレーニングは負荷設定が難しいが筋肥大アプローチには有効な面も

・怪我のリスク、特に下背部の受傷率は1.9倍と高いためリスク管理が重要

 

 

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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