トレーニング指導を生業としている私にとって、スクワットは「野球選手にとってのグローブ」、「事務職の方にとってのパソコン」みたいなもの。
…ピンときません?あまり例えが上手くないか…
なくてはならないもの、ということがお伝えしたかったんですが、それは置いておいて。
今回は「スクワット動作における深さ」を取り上げたいと思います。
BIG3としてKING OF EXERCISEと呼ばれるスクワット。
すごくシンプルな話をすると、スクワットはしゃがむ深さによって扱う重量が変わります。
しゃがむ深さが浅いと高重量を扱え、深いと重量が下がるわけです。
深さの種類は大きく分けると4つあります。
1.膝関節を45度ぐらい曲げる → クォータースクワット
2.膝関節を90度ほど曲げる → ハーフスクワット
3.膝と股関節が地面と平行までしゃがむ → パラレルスクワット
4.股関節が膝関節よりも下にくる → フルスクワット
それでは具体的に、4つのうちどのスクワットが効果的なのでしょうか。
私はパラレルスクワットor可動性が確保できているならフルスクワットが最適だと考えています。
まずは代表的な4つの深さの違うスクワットの特徴を簡単にまとめてみましょう。
「スクワットは深くしゃがむほど、立ち上がる際の大臀筋の活動が大きくなる」。
この結論は、多くの論文の中で同じ結論で語られており、疑う余地は少ないでしょう。
この大きな理由として考えられるものは2つ。深くしゃがむと、
1.最も低く下げた位置(ボトムポジション)で大臀筋のストレッチが大きくなる
2.上体が前傾して股関節の屈曲が大きくなり、股関節の伸展筋である大臀筋が屈曲への抵抗力を発揮する
…うん、すごく納得です。
だからスクワットは、可能であればフルスクワットを行うべき(1)。
…しかし。
現実的にスポーツ現場で指導している私からすると、難しいところがあるのです。
野球選手はまだしも、ラグビー選手では、きれいにフルスクワットできる選手はほぼいません。
単純に体が硬い(←この表現も本来専門家が使うべきではありませんが)のではなく、コンタクトスポーツ特有の筋緊張が高い状態であることが一番の原因でしょう。
さらに、フルスクワット動作を十分に行えるキャパシティがあったとしても、それはただの柔軟性ではなく可動性を獲得している必要があります。
…当たり前ですが、これは盲点なので自戒の念を込めて。
二つの違いや弛緩性について詳しく知りたい方は以下のブログ記事もお読みください。
充分な股関節・足関節の可動性や腹腔内圧が不足している場合であれば、関節にかかるストレスは増大。ケガのリスクは一気に高まります。
だから私の結論は、パラレルスクワット推しで、問題なく可動性があるならばフルスクワット、となるわけです。
実際の現場で安全かつ効果の高いスクワットをさせるには…
そんな風に頭を悩ませることもありますよね。
私はその一つの工夫策として、「2秒保持スクワット」を採用することがあります。
この動画のように、最下点で2秒止めるのを義務付けてスクワットをするもの。安全に行えるうえに深いスクワットと同様の効果が期待できるのでオススメです。
ただ、「力をすばやく立ち上げる能力」であるRFD(Rate of Force Development)の要素を向上させたい場合などには、適しません。
意図をきちんと把握した上で、上手に活用していきましょう。
以前所属していたチームにて。
スクワットを中心とした筋力強化がパフォーマンスに好影響を与えるというポスター資料を作りました。
かみ砕いて、できるだけ簡単に…
スクワットの強さがスプリントにおける加速時間とジャンプの高さとの間に相関性があるというリサーチを紹介。
そしてより深い角度でのスクワットの方がその効果も高いという調査結果も端的にまとめています。
スクワットに関わる多くの論文。様々な条件や制限因子があるなかでも、ほぼ全ての論文で共通しているのがスクワットそのものの有益性。
正しく継続すること(その定義や方法論がとびきり難しいですが)によって、筋損傷のダメージを減らしスプリント能力やジャンプ能力を高めることができる。
改めて言うまでもないかもしれませんが、スクワットというアプローチをしない手はないんです!
所属するラグビーチーム内で定期的に行うストレングステスト。絞りに絞っても外すことができないのがスクワットです。
自体重の2倍の重量を挙げることで、最大筋力をパワー(短い時間で速く物質を移動させる仕事量)に転化できるというのは、多くのリサーチからわかっていること。
フォワードの中でもプロップと言われる1列目の選手の中には、最大で120㎏の選手もいます。この体重になると2倍の重量を挙げるのはとても困難。240㎏だけではなく120㎏ある自分の体重(合計360㎏)を支えて持ち上げる必要が出ますからね。
私のように体重が軽い選手ほど「自体重の2倍の重量」というスクワットの目安は達成しやすい。そういった問題点を考慮しつつも、必要な情報としてスクワットテストは欠かせないものなんです。
多くの論文が導いているように、スクワットを行う際にできるだけ深く行った方が効果は大きいというのは間違いありません。
しかしスクワット動作では、身体の相対的な特徴(太もも部分が長い人など)であったり、個々の骨格や筋の付着部位にも大きく影響を受けます。
「とにかく深く!」だけでは関節(特に腰椎下部)の負担が大きくなってしまう選手が出てきます。
特に現在所属しているチームは48名の選手が在籍。国籍も日本、韓国、オーストラリア、南アフリカ、ニュージーランド、トンガという6か国の選手がいます。
身長も下は160㎝から上は204㎝までと非常にバラエティに富んでいます。統一した指導には無理がある環境でしょう。
それでもチーム単位で指導する際にはガイドラインは必要。
今のチームではガイドラインとして「お尻が膝の高さと平行になるまで」下げるパラレルスクワットと決めてしまいました。
やや乱暴な定義ですが、これをベースにストレングステストを評価。そのためにはいつもこの深さまでは実施することを意識・徹底させる必要があるからです。
この共通見解を持ったうえで現場のトレーニング指導を行っています。
実際にスクワットをチェックする際、必ずチェックするのが「背中が丸まらないで行えるギリギリ」の深さです。
股関節の引き込みができていて、「太ももの付け根と鼠径部の間、股関節で挟みこんだ雑誌が滑り落ちない」ような動作(ヒンジ動作)を指導します。
特異性の原則(Specific Adaptation to Imposed Demands)をどう捉えているかによっては矛盾が出るかもしれませんが、実際のフィールドでの動きとは異なる「踵寄りの重心でお尻側に効かせる」ことをまず習得する。
そうでないと、スクワットならではの恩恵を受けることはできません。
股関節の引き込み動作ができないことで、殿筋群への刺激が減るだけでなくハムストリングスの働きが弱くなる。
膝前面の筋群に対する拮抗の働きが効かないので、結果的に腰椎下部への剪断力(物体に「ズレ」を起こす力)が大きくなってしまうわけです。
NSCAのガイドラインである「膝がつま先を越えない」といった部分に固執する必要はないよな~、と長年感じていたのですが、この指標を「結果としてこうなることを防ぐことでそのプロセスを修正する」手段として用いる。
そう考えて設定したとしたらとても有益。ある種、温故知新だな~なんて最近感じています。
実際のスクワットに入る前に、選手個々の課題によってコレクティブドリルを処方するのはおススメです。
所属チームでも、プレシーズンには
1.肩に障害あり/肩可動域制限
2.腰部に不安あるグループ
3.膝の傷害歴あり/足首の可動域制限
ざっくりと3グループに分けてプレハブ(ケガをしやすい部位への積極的な怪我予防としてのコンディショニング)を5分程度行わせていました。
上記のようなものは腰痛やハムストリングスの肉離れ予防にも行っているレッグローワリングという種目です。
シーズンも中盤を過ぎると、技術練習でも腰椎への負担は大きくなってきます。この辺りはRISK & REWARDといわれる「トレーニングによるリスクと見返り」を天秤にかけた上で考えていく必要があります。
具体的にはインシーズンの中のマイクロサイクルで、ストレングストレーニング内でスクワット種目を抜く時期を3週間ほど作る。その期間はレッグプレスやヒップスラストといった種目を用いて、下肢への刺激を入れていけばいいでしょう。
完全にスクワット動作を抜くことに抵抗があれば、週2回入っていたスクワット種目、例えばバックスクワットとフロントスクワットのうち、一つを取ってしまうというやり方でもいいと思います。
細かすぎることはこだわりすぎずに、何の目的で「オールマイティに有効なエクササイズ」であるスクワットを使っていくのか。
本質的なイメージを忘れずに、今後も上手にスクワットに頼っていきたいと思います!
・スクワットの持つ効果を考えるとプログラムに絶対欠かせない
・定期テストにスクワットを入れることでパワー転換しうる最大筋力を備えているか判断できる
・スクワットの深さ一つとっても正に「深い」考察が必要
・理想を捨てずに現実的な状況に適応する方法を考える
・コレクティブドリルやスクワットを抜く周期を取り入れることでリスクを減らす
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