トレーニング&コンディショニング

タブー視されている肩のインナーマッスルについてS&Cコーチが語ります

はじめに

解剖学的見地が関わる内容に関しては、私よりも詳しい方が星の数ほどいらっしゃること、比較的「正解・不正解」に近しい結論が出ることで、あらぬ熱いご意見や炎上が怖いため、正直避けている話題です。

…とはいうものの、音声配信stand.fmにて

肩のインナーマッスルを鍛えるメリットについて、お聞きしたいです。ケガがしにくくなる、パフォーマンスが向上するというのは本当なのでしょうか?

という非常に素朴なご質問をいただき、私なりの見解をお話しました。

今回はその配信を基に文章化したものを紹介していきます。私見の部分もあるので、ご意見いただけるのは嬉しいですが、苦情や批判はせずに温かい目で読んでいただければと思います。

記事の基となった音声配信回はコチラ

 

インピンジメント症候群を引き起こさないという観点で

インナーマッスルなんて英語はない

大前提として、インナーマッスルという表現は日本語英語というか造語です。外国人にインナーマッスルという表現をしても通じません。私の師匠の1人でもあり、野球界のトレーニングのパイオニア立花龍司さんが使い始めた言葉だと思います。

筋肉そのものに内・外と言うインナー・アウターという概念はありません。表層・深層といったように、筋肉の位置している深さによって筋群が定義されているというのは、認識しておくべきポイントの1つです。

一般的にインナーマッスルという言葉で表現されている筋肉は、細くて中の方にある筋肉で、アウターマッスルといわれている筋肉は、太くて強く表層にあるということが多いです。

結論を言うと、インナーマッスルを鍛えたからといって、深層にある小さい筋を鍛えたからといってパフォーマンスが向上するわけではありません。ただ怪我をしにくくなるというのはある意味で事実ではないかなと思っています。

インピンジメント予防でローテータカフの教育を

理由として考えていることの1つは、インピンジメント症候群の予防です。

大きな筋肉を外側にある表層にある大きな筋肉群をメインで動かす癖がつくと、肩では「インピンジメント症候群」が起きやすくなります。これは、肩腱板が骨の上部に衝突したり挟まったりすることで痛みを起こし、動かす事が難しくなる症状の総称です。

肩峰と言われる肩の前方に引っかかってしまったりする症状がでてきたり、肩の可動域がなめらかに思ったように動く範囲が狭くなったりといったことが起きてくるわけです。

肩周りに関しては、車のハンドルみたいなイメージをするといいです。適度な遊びが必要でもあり、ゆるすぎてもよくないんですね。

インナーユニットと言われたり、ローテータカフと言われたりする、その小さな筋肉群の働きが悪くなってしまって、上手に収縮してくれないと関節の遊びが少なくなってしまいます。繰り返すことにより、偏った形になってしまって肩と上腕の正しい位置関係が保てなくなるわけです。

それを起こさないために、小さな筋肉群の働きが必要になります。上腕骨と肩甲骨に隣接していますが、そこにちょうどいいくらいの関係になるように、微調整をしてくれるのは、俗にいうにローテータカフを中心とした小さな筋肉だからです。

ここを鍛えるのは、本来はどのスポーツでもすごく大事なことですが、なかなか意識して小さな力で行うことや、正しい位置で行わないとこの部分の筋群を活性化する、アクティブにすることっていうのは難しいんですね…。

特に野球に関しては、肩をダイナミックに使う種目でもありますし、典型的なオーバーヘッドスポーツで肩を上げたり下げたりすることが多いので、働きが重視されるんですね。

結果的に、野球の中で、その小さな筋肉を強化することや、教育する時間が多くなるのは仕方がないと思っています。これはハンドボールやバレーボールでも全く同じことです。

サッカーやラグビーといった種目に比べると、そういった小さな筋肉群を教育する時間を、多く取る必要があるんですね。

オーバーヘッドスポーツでは肩甲平面上で強化を

もちろんオーバーヘッドスポーツと言われている野球やバレーボール、ハンドボールといった選手たちも、大きく強いその表層にある筋肉の力自体は必要です。強化は続けますが、強化する角度だけちょっと他のスポーツに比べると気をつける必要があります。そのポイントだけ押さえておいて、適切に筋力トレーニングをしてもらっているというのが現状です。

見た目上の肩の真横は負担かかる位置

強化する角度に気をつけて欲しいという意味ですが、よく「肩を真横に上げて下さい」と言うことで例え話をしたりします。

こう伝えると、大抵の方は耳の横あたりに腕を上げてきます。肩の屈曲・外転と言いますが、耳の真横に肩を上げた状態は、肩そのものからすると真横ではないんです。やや後ろ側に引っ張られた状態で、少し苦しい位置なんです。

肩甲骨にくっついて、上腕骨という肩の方のところでついているので、肩甲骨は角度が少しついています。少し真上から見た状態で言うと、逆ハの字みたいになっています。上から見ると少し外側が前に出ている形なんです。

だから本当は肩を真横に上げてという表現をすると、少し斜め前方に肩が上がるはずです。

よく伝えるのですが、無邪気に両手でガッツポーズして下さい!やったー!とやると、ちょっと斜め前方に自分の肩、拳を上げますね。そこが肩からすると、本来の位置でいう「真横」になります。

そのラインのことを、スキャプラプレーンや肩甲平面と言います。この位置を使ってPush やPullといった上半身のトレーニングを行うというのが、オーバーヘッドスポーツでは基本となります。

そこから肩の位置が後方へ下がってくると、肩にとっては負担のかかるポジションで、俗にいう「遊びがない状態」や、引っかかりやすい状態になってしまう。

競技特性を考えて、そういった見た目上、真横にあげてしまうのは避けたい、というのは、他のスポーツとちょっと違うところでしょう。

動きの中で鍛える意識を

筋肉としてインナー・アウターという風に、個別に考えて鍛えているというよりも、肩甲骨周りの動きを出しながら、バランスよく協力し合うようにトレーニングしていくというのが大切だと思っています。

トレーニング指導者の世界では、Don’t train muscles, train movementsと昔はよく言っていました。

この言葉には、筋肉を鍛えよう、大胸筋を鍛えようとしてベンチプレスをするというよりも、動きを鍛える中で全体的にそこの大胸筋を中心とした筋群を強調させて鍛えていきましょう、まず動きありきだよね?という意味合いが込められています。

前鋸筋や僧帽筋下部線維もきたえよう

ちょっとマニアックですが前鋸筋や、僧帽筋下部線維といったところの働きが、肩甲骨の動きそのものの中でも、特に上方回旋と言われる上に向かって肩を回しながら上げていく構造、外側に開きながら上げていく動きには大事になったりします。

動きの中で普段は使いづらい前鋸筋や、僧帽筋下部線維といったところを使えるようにオーバーヘッドスポーツの選手、チームを指導するときには、これらの筋群が働くような種目も多く取り入れたりしています。

肩関節の不安定・脆弱性を考慮して

肩の構造上を細かく言うと、ジョイント・バイ・ジョイントアプローチ(Joint by Joint approach)というのは有名ですよね。

理学療法士の方にとってはすごくポピュラーだと思いますが、人間の体の大きな関節には動きをメインとして、可動性をメインとした役割を担っている関節と、安定性をメインとした関節があり、それが交互に働いている。

肩関節に関しては、二足歩行になった時点で、人間の進化としてわざとすごく可動域を広げて、可動性を大きくしたかったという進化の過程があります。

可動性の代償として、肩はわざと浅めに作ってあるので、がっちりと固定していません。だから脱臼が一番多いのは肩になります。可動性を重視した分、そのリスクとして安定性が弱くなってしまったのが肩関節です。

だからこそ肩周りには他の関節周りよりも多く、小さな筋肉というのが発達しているわけです。

怪我を防止すると言う観点から考えると、そのローテータカフといわれている4つの小さな筋肉群を中心とした、細かい筋肉も共同させる必要があるというのが1つの結論だと考えています。

まとめ

ブログ記事内で久々に専門性の高いテーマ、それもPTやATにとって大好物の肩関節周りの筋群を取り上げてしまいました…

反応が心配ですが、私自身は日進月歩の肩周りの強化・教育に関して、シンプルな考え方でアプローチしています。

解剖学や生理学は一通り学んだものの、まだまだ臨床や現場経験がない… そんな若い世代の一つの参考になれば嬉しいです!

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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