朝晩、本当に寒い冬。持病の関節を持つ人間にとって、疼くような不快な感覚になりやすい時期です。
私も二十歳前に遭った交通事故の影響で右膝に問題を抱えています。低気圧が上陸すると十中八九疼痛が出る膝には気が滅入るもの。
数ある関節の中でも、膝関節はその不安定な構造から問題を抱えやすい箇所。ちょっと専門家らしい膝への考察を述べていきたいと思います。
基本的な概念として、足首、膝、股関節を矢状面で正しく連動させることが、最適な膝の機能を得るための最初のステップになります。
骨盤が前傾していると股関節が屈曲位に入ります。こうなると膝も屈曲位になるわけで、膝が真っすぐに伸びない状態は長期的にみると膝を痛めやすいのです。
膝への考察に対して米国の理学療法士は、「膝は馬鹿な関節だ」という表現をしていました。股関節と足首・足部の複合体は、膝の位置を決定づけるだけでなく、何が出来るかということさえ決めてしまいます。
Joint by jointアプローチの概念ってすごいよなぁと思わされる部分ですよね。
不安定な構造ではあるものの、安定性を確保する必要がある膝関節。
それを為すためには骨盤の機能を働かせたうえで、股関節・足関節の可動性をしっかりと高めておく必要があるわけです。
これら全ての関節で、充分な可動域と筋力、矢状面でのコントロールができれば「いい状態の膝を得る」基礎を築くことになるのです。
膝の痛みに悩まされている人の多くは、股関節の伸展の制限を持っていることがほとんどです。膝に問題があるクライアントの評価において、膝の可動性がとても悪いケースは多くみられます。
本来膝関節では5-10度の過伸展が得られるべきであり、その動きの最終域は滑らかであるべきです。しかし膝に問題がある人達は可動域が充分でなく、エンドフィールが硬く滑らかでないのです。
膝の伸展制限にはいくつかの要素が考えられます。
先ほど挙げたような骨盤のアライメントの悪さ(過度の前・後傾あるいはスウェイバックなど)、大腿四頭筋の筋力不足、ハムストリングスやふくらはぎ(特に腓腹筋)のタイトネス、距腿関節を中心とした足関節の可動性の欠如… まだまだあるでしょう。
びしっと膝関節伸展を制限している原因がわかれば素晴らしいのですが、治療家としての能力は半人前でありS&C専門家の私。
とにかくクライアントの膝の伸展を何としてでも取り戻す、ということに焦点を当てて取り組んでいます。具体的に行うことは、大腿後面の筋肉群をパートナーストレッチや接触鍼などを利用してオフにすること。
これによって大腿四頭筋の動員を促進し、正しいポジションに持っていけるかを見ていきます。その後、足首の充分な背屈を伴った膝の伸展動作を含んだアクティベーションドリルで、大腿四頭筋を収縮させる感覚を身につけてもらう。
仰向けから床上15㎝程度にて片足を保持するレッグエクステンションホールドやレッグローワリングのようなコレクティブドリルを選択することが多いです。
大腿四頭筋を更に強化するために、リバースランジのような強化エクササイズも漸進的に行います。ただアスリートでない一般の方はそもそも殿筋やハムストリングス、腹筋群が弱いことが多く、それが股関節伸展や膝関節伸展を制限していることが大半です。
初期段階でこういった骨盤周りの筋肉を強化・教育していきます。
学んでいるPRIセミナーで再認識したのは、呼吸の重要性。多くの人たちが正しくない呼吸により、股関節の屈筋や腰椎の伸筋を代償として使っていることに改めて気付かされました。
毎日2万回といわれている呼吸を通して、もし股関節屈筋や腰椎の伸筋を使っているようであれば…。
どれだけストレッチをしたり筋膜リリース的アプローチを継続したところで、股関節の伸展を大幅に改善させることはできないですよね?
正しい呼吸パターンを改善させなくても、ある程度までは漸進しますが最終的に行き詰ってしまうでしょうから、やはり呼吸へのアプローチは必須になります。
膝の話題ということで、成長期に多く見られるオスグッド・シュラッター病についても簡単に言及していきましょう。
先日女子サッカーに明け暮れている次女から、帰京した際に相談を受けました。
「お父さん、最近私ここ(と、右膝のやや下を指さす)がたまに痛いんだよね。どんなストレッチしたら治る~?」と無邪気に聞いてくる娘。
…そこは典型的な「オスグッド」の痛みが出るポイント。脛骨粗面という部分なわけです。
骨端症の1つで発育期に起きる代表的なスポーツ障害がオスグッド・シュラッター病。通称「オスグッド」です。
学生時代に学んだものとしては、「10歳から15歳ぐらいの小・中学生に多く発症し、女子の方が1~2歳早く発症。特にバスケットボールやバレーボール、サッカー選手などが多く発症。」と記憶しています。
12歳で週3回程度のサッカーと市内陸上の1500M・100Mリレー選手として練習に参加していた次女は、ややオーバートレーニング気味の正に典型的な小学生。
触診してみると、脛骨粗面付近の隆起は見られませんでしたので一安心。
陸上大会の練習量のコントロールと自宅に戻ってからの太もも前面である大腿四頭筋、拮抗筋であるハムストリングス、二関節筋として膝の可動域制限の要因になりやすい腓腹筋の3種類のストレッチを教えました。
大腿四頭筋は横になって上足の膝を曲げて、上側の手で足首を押さえるもの。ハムストは立て膝から片足だけ踵を床につけて伸ばして前屈する、というタイプ。最後のは典型的な膝を伸ばした状態でのふくらはぎストレッチです。それぞれきちんと数えて30秒ずつ行わせるのがポイント。
ストレッチ後に5分程度の膝蓋骨を中心としたアイシング→5分放置x2セットを教え継続するように伝えました。
内的な要因としては、ざっくり言えば骨の成長(身長の増加)に筋肉の成長(筋腱の伸張)が追いつかないこと。
しかし親として、S&Cコーチとしては外的要因をできるだけ取り除いてあげたいところ。そもそもの練習量のコントロールであったり、シューズやそれに伴うインソールなど。どうしても費用がかかってしまうところですが、成長期こそこまめに足に合ったシューズを与えるのは大切です。
とにかくオスグッドに関しては、ひどくなる前にしっかりと予防するのが最重要。一生懸命スポーツに明け暮れている成長期の子供たちにとって一番つらいことは痛みやケガで、長期離脱しなくてはいけないことですから。
そうならないためにも、親が積極的に練習量のコントロールしたり、(日本の文化では難しいですが、堂々と『ずる休み』をさせることも必要です!)痛みが出たら早めに整骨院や整形外科でのチェックを行ってあげてください。
・膝関節はそもそも不安定で安定性を有するのが難しい
・股関節伸展の確保、大腿後面を緩ませることも膝伸展戦略には大切
・成長期の子供に頻発する「オスグッド」の正しい知識が必要。特に総練習量のコントロールは積極的に関与しよう