「小学生ぐらいまでで、運動神経の悪い子なんていない」と少し極論気味のタイトルですが、そんな話をしていく記事。
あまり多くはありませんが、Twitterの過去ツイートで多く反応があったものをしっかりと説明して、深堀りをしていく記事を書こうと思い立ち文章にしました。
このテーマに関する私のツイートは下記の通り。
小学校ぐらいまでで「運動神経が悪い」子供なんていない。
この意識を運動指導者は必ず持つべき。
あなたの決めつけを信じ込んで、運動に苦手意識を持ったり楽しめなくなる子供がいたら…あまりに罪深いよ。
運動動作がぎこちない、できないこの時期の子供は「さまざまな運動体験が足りない」だけ・
— ひろたゆうじ@アスリート・スポーツのパフォーマンスを総合的にサポートするコーディネーター (@yuji163) February 26, 2021
Twitterでは140文字という非常に限られた中で伝えるので、端的に書きますが今回のツイートで伝えたかったことは、
「もともとの運動神経が悪い!と決め付けること自体が責任重大だよ。」
ということなんですよね。
指導者のバイアスが一番怖い
体の大きさや成長の度合いにもよりますが、
「小学校6年生ぐらいまでの間で運動神経が悪い子どもなんていない。ほとんどは、そういうことではない。」
という認識を運動指導者に関しては、必ず持つべきだと私自身は思っています。
当然、多少は遺伝的要素もあります。
元々、ビュッと走ったら走れる子もやはりいます。
ですが、「ほとんどが運動経験の引き出しのあるなしである」ということをしっかりと認識できれば、子どもたちに対する運動指導の幅も違ってくるのではないかと感じるんです。
運動への苦手意識は長期に渡って悪影響が
指導者側の決めつけを信じ込んで、運動に苦手意識を持ったり、結果的に楽しめなくなってしまった子どもたち。
彼ら、彼女らも、やがて大人になり、中年、そして高齢者になります。
高齢者までの間に運動習慣が全くないということは、健康寿命などにも影響する大きな問題です。
こうなってしまうと非常に罪深いですが、元を辿ってみると、小学生の時に体育の先生にのろまだと言われたとか、運動神経が悪いなって友達に笑われたとか、そのような経験を持った人が驚くほど多かったりします。
…責任重大だと思いませんか?
典型的な跳び箱を例に考えてみよう
具体的な例を上げながら話をしますが、小学校2・3年生の体育の種目で「跳び箱」がありますよね。
仮に全く跳び箱が飛べない子がいたとします。
私は運動指導者といっても、アスリートのパフォーマンスなどを上げるためのトレーニング指導が専門。ついつい無意識に、動作の分析をしてしまいます。自然と問題の因数分解を始めてしまう癖があるんですね。
こういった時に授業では跳び箱を低くして、とにかくひたすらに飛ぶ練習をするのですが…。
これは引き出しの問題だと思いますが、跳び箱の高低を調整する前に、考えるべきことがいくつかあるはずなんです。
考えうる原因1.柔軟性の問題
例えば、脚をパッと広げることがそもそもできないのかも知れません。
これは子どもの頃から全くそういった動きをしていなくて、子どもだけれども中年男性のような状態で、股関節を開脚するだけの柔軟性がないという可能性が考えられます。
この場合にはつまらないかもしれませんが、ストレッチのようなことをする必要がありますよね。
考えうる原因2. 足を開くタイミングがわからない
パッと足を開くというタイミングが分からないのかも知れません。
足に関してはパッと開くという時に力を入れてしまうと、うまく広がりません。
ちょっと抜く感じなんですよね。パンッと外に反動で投げ出してあげて、そこから力を抜いてあげないと股関節はパッと開きません。
考えなくてもできる人は、理屈抜きに自然とできてしまっているだけです。
考えうる原因3.勢いをつけてタイミングよく踏み切る、がわからない
決まった距離に対して勢いをつけ、タイミングを計るという経験がそもそもないというケースは結構多いです。
踏切板に向かってパーっと走っていき、ある程度の勢いをつけたら今度は少し減速しながら、踏切板を飛ぶためのタイミングを合わせなければいけません。
その際に踏切板のことを全然無視したかのようにダーッと走っていって、ぶつかりそうになる子を見たことがあるのではないでしょうか。
これは決してふざけているわけでも、運動神経が悪いわけでもなく、タイミングが分からないだけです。
段々と近づいてくる踏切板に対して、どの辺りで抜き、どれぐらい減速をして、どれぐらいの力加減で飛び込んでいけば良いのかが分からないのです。
さらに、踏切の際に両足で踏切板(ロイター板)を踏みつけるという感覚が分からないという子も結構多いです。
踏切板がその上に乗っただけでビヨーンと浮力をアシストしてくれるわけではないことを、我々大人は分かっています。
踏切板というバネがあるものに対して、しっかりと体重をかけて踏みつけないと反動は返ってきませんよね。浮力を得られないので、飛ぶためのアシストにならないわけです。
そもそもこの理屈が分からないし、感覚もないので「踏切板で飛べ!」と言われたら、飛ぼうとするので踏みません。矢印が上に向いてしまっている子も多いです。
その状態の子に反動や助走をつけ、タイミングよく、踏切板のマークのところに両足で踏みつけ、斜めに飛ばせることは難しいです。
そんな場合には、踏切板の真上で、単純にボーンボーンボーンと踏んで飛ぶ感じをつかもうと教えるだけでも変わったりします。
考えうる原因4.どの方向に飛べばいいかわからない
跳び箱のどの方向に、勢いをつけて飛べば良いのかが分からないということもあります。
踏切板をしっかりと踏むことはできていても、自分の走ってきた方向に対して、ものすごく斜めに踏んでしまう。
そうすると、当然自分の体がほぼ真横に、まっすぐに跳び箱に突き刺さる(ダイビングする)ように当たる形になります。これを1回でもやってしまうと怖くなります。
手のつくタイミングもポイント
さらに、良い角度(斜め45度から50度)でうまく飛び込めたとしても、手をつくタイミングが分からないという子もいます。
手をつくタイミングが分からない場合、ギリギリまで引きつけられる子はほとんどいません。怖いし、分からないので、踏切板を踏みつけて飛んだ瞬間に手を前に出します。
手を前に早く出しすぎると、ブレーキになってしまいます。跳び箱の上で、反動でポンと補助的に手を押しつけるわけではなく、勢いを止めてしまう。前でバチンと止めてしまう形になり、飛ぶことができません。
原因を探り一つずつ試す
こういった1つ1つのことを分からないままで、いきなり跳び箱を飛ぶということは高さを低くしようが、高くしようが関係ありません。
跳び箱を飛ぶための1つ1つの要素の中で、感覚が全く分からないものがあると飛ぶことができないのですから。
それを「よし、低くしたから頑張って飛んでみろ!もっと勢いをつけてみろ!」という形でやらされて、跳び箱に向かって突き刺さったり、跳び箱を崩してしまって自分が転んで込んでしまったり、膝を怪我するといったことをしてしまえば…?
これまでの色々な経験も総合して怖いということになります。
怖いという感覚がある中で、痛いという経験をしてしまうと、なかなか力を抜くことができなくなるので悪循環に陥るわけです。
いかがでしょうか?
跳び箱の練習をひたすらやらせることが、運動学習になるわけではないということは、今の理屈を聞くと分かっていただけると思います。
とってもシンプルな話をしているはずですよね。
元々、運動神経というかパッと動くことが得意ではない子もいますが、この時期の子どもたちで、運動動作がぎこちない、できないという場合は、そもそも様々な運動経験が足りていないだけだと考えてOKだと思う理由はここにあるんです。
運動指導と考えず「適度に遊ばせる」要素を
体育でやるような決まった種目ではなく、色んな要素が組み込まれた遊びであれば、できても、できなくても、多少下手っぴだとしても、遊びであれば楽しいものです。
「ドッジボール」は最たるものですし、「どろけい」や「氷おに」もそうです。切り返す、逆走する、投げる、捕る、回り込むなど、色んな動きが入っています。
負けたチームは罰ゲームということで、ワニ這いやハイハイをさせれば、這うという動きも入れることができます。
小さい時こそ、損得やできるできないという尺度ではなく、
「やったら楽しそう!」、「あれに参加したら面白そう!」と思わせる。
事前に色々な運動学習としての要素が組み込まれた遊びを、たくさん経験させることが一番大事だと思っています。
まとめ:運動への苦手意識を持たせないために
一定の年齢を超えてしまうと、運動の感覚を繋げるニューロンがうまく統合できなくなるので、幼い時よりも即時の習得ができなくなっていきます。
30~40代といった我々のような世代になってから、自転車に乗れなかった人が急に乗れるようになるかというと、小学生の低学年の子どもがパッと感覚をつかむような感じでは学べないということは、多くの研究を通して分かっています。
ただそれよりも、大人の運動しない方のマインドとして「自分は運動が苦手だ」、「できないのを見られるのが恥ずかしい!」といった自尊心やプライドのようなものによって、なおさら運動をしなくなるという悪循環こそが、一番の問題ではないか。
たくさんの子どもたちを見てきて、私はそう思っています。
この問題を何とかするためにも、まず運動指導者や体育の先生は
「小学生ぐらいまでは、基本的に運動神経が悪いということはなく、経験の差なのだ」
と思うようにすること。
そして、
「どういった経験をさせてあげたら、色んな運動体験ができて、何か新しいことにチャレンジする時のヒントになるような引き出しを作ってあげられるか?」
を考えていく必要があると思っています。
ぜひ関係者の方は、そんなマインドを持っていただけたら嬉しいです。
プロの運動指導者として、出張で運動指導もさせていただくので、お問い合わせフォームからお気軽に連絡もいただければと思っています。
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YUJI HIROTA
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