スポーツ選手にとって最も厄介なケガ。それが膝のケガです。

もともと構造上、人体の中では非常にもろい膝関節。大腿骨と接している脛骨は上端上面はわずかに凹面をもつ2面の上関節面がありますが、感覚的にはほぼ凸x2の2つの骨。

ちょっと安定の悪い机の下に挟み込んだ薄手のジェル。これが半月板だったり関節包だったりするわけですよね。

そのうえでガチっとはまっているわけではない膝関節を守るために前後と内外にとにかく靭帯で安定を図っている、というのが膝の構造と考えていいでしょう。

そんな構造の膝なので外力に弱いのは必然。プレー中の切り返し時やコンタクトプレーによって膝が強制的に内側に入る、というのが典型的なケガの発症パターン。

内側側副靭帯(MCL)と並んで発症しやすいのが前十字靭帯(ACL)の損傷です。

 

前十字靭帯損傷による手術について

日本の手術予後の現状

私が以前所属していたラグビーチーム。毎年平均1.5名が膝の前十字靭帯断裂もしくは損傷の怪我を経験していました。

手術適応の場合は復帰までの最短期間で9カ月。日本では平均1年近くかかると考えられています。そして復帰してからも今最もポピュラーである腱移植を行った場合は移植した腱や靭帯が完全に適応するまでには2年見なくてはいけないだろう。

日本における現状の膝の前十字靭帯損傷の予後はこんな見立てが一般的なんです。

LIGAMYSという新手法

そんな中、全く新しい手術方法が広まりつつある、という記事を目にしました。そこから行き着いたサイトがオランダにて理学療法士として活躍されている平出さんのブログ。

更に詳しい記事は「前十字靭帯損傷後の新たなる可能性。切れた靭帯を修復させるための手術」をご覧ください(平出さん、ありがとうございます!)

同じ内容の動画をyoutubeで見つけましたので参照してください。

「Ligamys」といわれるこの方法は画期的です。

・前十字靭帯損傷後21日以内が適応であるということ
・過去に前十字靭帯を損傷した経験がないこと
・成長期を過ぎていること

3つの条件はあるものの今まで長期化が定説だった前十字靭帯損傷予後を、大幅に早める可能性が広がったわけです。

Ligamysは損傷した靭帯を支え正しいポジションを保って、さらに靭帯が修復するまではその役割を補うことができる方法。本来の靭帯を修復させるのですから、これは保存療法の延長だと捉えられるそうです。

動画にもあるようにドリルで留められていた金具は術後6か月にとるだけ。内視鏡手術で終了するわけです。

この技術、私が知る限りまだ日本では活用されていないのが実情。Ligamysの技術を考え出したスイスでは、2014-15年に30件のこの手法での手術のあと、29件が4か月以内に元の競技レベルに復帰できた、という報告もあるそうです!

早く日本でもこの技術を活用できる施設が増えて、実際のスポーツ選手に応用してほしいですね。

 

日本と海外の復帰時期のスピードを考える

ヨーロッパやアメリカではなぜ前十字靭帯断裂からの復帰が早い?

ストレングス&コンディショニングというトレーニング系が専門のいわゆるスポーツトレーナーである私。

Co-medicalの勉強の基礎は留学時代のアメリカでしたが、当時から前十字靭帯、いわゆるACLの再建手術からの復帰はアメリカのほうが日本よりも数か月早かったと記憶しています。

千葉ロッテに所属していたころのボビーバレンタイン監督や、近鉄ライナーズ所属時のスティーブ・カンバーランドFWコーチ。

彼らが口々にこぼしていた愚痴が「なぜACL再建手術からの復帰に12か月近くもかかるんだ?」というものでした。

医学的な知識を知っているわけではない彼ら。しかし現場で選手のケガからの復帰を経てきたプロセスを考えると、日本国内での復帰スピードが物足りなく思っていたのです。

なぜ日本でのACL復帰は欧米に比べて、遅いのでしょうか。

 

最新の手術手法

1つの原因が、前述したLEGAMYSのように最新の手術手法が生み出され、前例がないものでも最低限の安全が保障された時点でどんどんと取り入れていくためでしょう。

外科医のスキルそのものは、むしろ日本国内のドクターの方が高いという評価のようです。

しかし新しい手法を行っていくには、最新の機器が必要であったり病院内でのコンセンサスも必要。費用面での負担や新しいチャレンジへのスピード感といった部分で日本は不利なのではないでしょうか。

 

環境面の未整備による初動の遅さ

手法もそうですが、私が最も大きな違いと感じるのは、ケガ発症からの診断→手術までのスピードの遅さです。

欧米の環境と例

欧米のアスリートレベルのスポーツでは大学生であっても、スタジアム内にレントゲンやMRIをチェックできる施設があったり、隣接したメディカル施設が存在します。

今シーズン開幕戦でハンブルガーの先制点を記録したニコライ・ミュラー。ゴールパフォーマンスの回転ジャンプでACLを断裂。

彼のケースでは、理学療法士が負傷直後からアイシングと患部の固定に徹し、試合終了後すぐに医師が診察。負傷から3時間後には病院でMRI検査を受け、2日後に手術を受けたとのこと。

もちろんドイツでもアマチュア選手の環境はプロとは比べ物にならず、手術までに1週間~2週間要することはざら。

その間にむくみや腫れが起こり、手術予後に大きな影響を及ぼすため、同じ病院でもプロ選手とアマチュア選手では数か月も復帰が違うのだそう。

 

一般人と同じプロセスで受診する日本のアスリート

日本を取り巻く状況でいうと、アスリートであっても受診するプロセスはほぼ一般の方と変わりません。

チームドクターが存在するラグビーであっても、試合会場によっては本格的な病院受診までに数日を要することもあります。

手術メソッドや術後のリハビリもとても大切ですが、どれだけ素早く受診し判断し、必要であれば間隔を置かずに手術に踏み切れるか。

ここまでのスピードが早ければ早いほど、リハビリ期間を大幅に短縮されるのでしょう。

難しいことではありますが、ACLのケガはアスリートにとっては致命傷になりかねません。環境面での整備はこれからの日本のスポーツ界の発展のためには、本当に必須だと思います。

まとめ

・ケガの中でも前十字靭帯断裂は長期化する典型的なケガの代表

・LEGAMYSという最新手法があり、大幅に復帰時期を早めることができるが日本で導入されるに至っていない

・手法や技術ではなく、受傷後の診断から手術に至るスピードを早めることが日本の課題ではないか

 

 

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。









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