スポーツにおけるふくらはぎのつりの原因は?原因究明のヒントを考える

ぐんぐんと気温も湿度も上昇してくる夏。サッカーやラグビーでも試合終盤、足を抱えて倒れる選手を見ることって多いですよね。

極度の疲労状態から足をつっているのですが、大部分はふくらはぎのつりです。

・・・そもそも何で筋肉がつるのでしょうか。原因がわからなければ対策も難しいですよね。

実際にスポーツ現場でトレーナーが頭を抱えるのが、「選手の足がつる問題」。
一般的な原因と、スポーツ特有のつりの原因、考え得る対策をご紹介していきます。

 

一般的なつり(攣り)について

日常的に私たちが経験する「攣り」。メカニズムは意外と知られていませんよね。

まずはごく簡単につりが起こる原因をおさらいしていきましょう。

 

筋肉がつるメカニズム

つっている時に、実際に変化が起きているのは筋肉です。

筋肉の緊張・弛緩を調節する筋紡錘という感覚装置があります。

これが上手に働かずに、筋肉を緩める調節が鈍り、突然強い痛みを伴って筋肉の急激な収縮・けいれんを起こしている状態が「つっている」ということ。

では何が原因で、筋肉を緩めるセンサーが働きづらくなるのでしょうか。

 

一般的な主な原因

1.ミネラル不足

もっともよく知られているのが、これですよね。

たくさん汗をかいたり、下痢などによって脱水状態におちいる

→カルシウム、マグネシウム、カリウムなどのミネラルのバランスが崩れる

→神経や筋肉が興奮しやすくなって足がつる

筋肉にはこれらのミネラルが必要不可欠なわけです。だからこそ水だけでなくミネラルを豊富に含んだむぎ茶であったり、スポーツドリンクの摂取をするわけです。

 

 

2.筋肉の疲労

サッカーやバスケ、ラグビーなどの試合終盤で選手がひっくり返って攣ってしまう場面は、ほとんどがこの筋肉の疲労が主原因でしょう。

体に力が入りすぎていたり、緊張状態が強かったり、いつもと違う動きをすると筋肉はびっくりしてしまい、早く疲労します。

「これ以上、緊張したり緩めたりをコントロールすることができないよ~!」
体からのある種のギブアップ宣言がつることなんです。

特にスポーツ選手に関して、筋肉の疲労と攣りの問題はより深く考察する必要があります。
このブログ記事の後半で詳しく説明していきますね。

 

3.冷え

運動不足気味で、夜中に寝ていて「こむら返り」といわれる、ふくらはぎのつりを経験する人。
一般的には、このタイプの人に多い原因が冷えです。

東洋医学的な表現でいえば、「冷え」は万病のもと。

男性に多いあせっかきで暑がりな人ほど、手先や足先は冷えているもの。固まった筋肉は、血管を圧迫し末梢まで血液が行き渡らなくなって、それが手足の冷えに繋がります。

冷え固まった筋肉は十分に緩むことが出来ないので、ちょっとした動きでも筋肉がけいれんを起こしやすくなっているんですよね。

 

一般的なつりへの対処法

上記に挙げた3つがポイント。これらは1つではなく、それぞれが影響しあって、休息を求めるサインとして痛みが現れます。

水分だけでなくミネラルを補充する意識で水分補給をしましょう。

真夏であっても、室内と外との温度差で下半身、特にふくらはぎは冷えやすいもの。
室内に入る際には、長いパンツをはく、ふくらはぎまで含めたコンプレッションウェアを着用するなどの配慮が欲しいですね。

私は鍼灸師のはしくれなので、『特効ツボ』と呼ばれる経穴も紹介しましょう。

ふくらはぎの攣りに効果的なツボ

<承筋(しょうきん)>

位置:ふくらはぎの縦の中心線上で、ふくらはぎの筋肉が最もふくらんでいるところ。 左右にあります。

刺激法:親指の腹で、「いた気持ちいい」と感じる力で、ひと押し10秒ほどを3~5回。デスクワークや通勤電車など座っているときは、足を組んで、一方のひざでもう一方の足のこのツボのあたりを刺激するといいでしょう。

<承山(しょうざん)>

位置:ふくらはぎの中心線上で、盛り上がりの下のはじ。アキレス腱を上にたどると、ふくらはぎの筋肉にあたる部分。左右にあります。

刺激法:親指の腹で、ひと押し10秒を3~5回ほど繰り返します。「承筋」同様に、足を組んでひざで指圧してもいいでしょう。

<陽陵泉(ようりょうせん)>

どちらかというと予防のための経穴です。

位置:足首の外側のくるぶしからひざに向かって指でなでながら上がると、でっぱった骨にぶつかります。そこから自分の親指の幅3つ分ほど下方にあるくぼみ。左右にあります。

刺激法:親指の腹で、ひと押し10秒を3~5回繰り返しましょう。

 

ツボ指圧の際のコツと注意点

・ツボの位置には個人差があります。自分で押したときに刺激を感じる、あ~、すごく効きそう!など反応がある場所を探してください。

・指の腹か、先がとがっていない丸いツボ押しグッズなどで、息を口から細く吐きながらゆっくり押し、1、2、3、4、5と数えながらそっと指を離してください。

・呼吸を止めないようにしましょう。

・指の跡が残るほど、強く押さないようにしましょう。筋肉を傷つけてしまいます。

正しく行うと、驚くほど効果を実感できるのが「特効ツボ」です。ぜひお試しあれ!

 

スポーツ特有のつりを考察する

さて、私としてはここからが本題。

ふくらはぎの攣りに関しても、スポーツ特有のものがあるんですよね。
試合中にがっちりと攣ってしまうと、もうプレーはできません。チームの勝敗を大きく左右してしまうわけです。

多発するふくらはぎの攣りを予防することが、私のようなコンディショニングコーチにとっても、頭を悩ませる大きな課題となります。

ここでは競技スポーツにおける特有の攣りについて考えていきます。

 

投手に頻出するつりの原因は

球界を代表する投手になったといっても過言ではないソフトバンクホークスの武田投手。しかし昨季はマウンド上での「攣り」が原因でマウンドを降りるケースが多発していました。

こういった症状、チームに所属するトレーナーやコンディショニングコーチにとっても頭の痛いところ。

私も以前所属していたプロ野球チームにて、先発の柱になる投手が投球時の「つり癖」が出たシーズンがあり、本当に頭を悩ませた記憶があります。我々にとっても死活問題なんです。

 

水分や塩分補給の問題であることはほとんどない

武田投手のケースのようにピッチングの際に攣るケースは、ほとんどが軸足側のふくらはぎです(右投手なら右足)。同様の症状に悩んでいた、当時の投手も全く同じ箇所の攣りを頻発させていました。

もしも今自分がその現場に居合わせたら…と考えると、当時と比べればいくつか当たりをつけていくことはできる気がします。

武田投手のケースは見ているわけではないので何とも言えませんが、生活習慣や水分・塩分補給などからくる問題はまずあり得ないでしょう。

こういった症状を一度でも経験した投手は、しっかりとした栄養管理をしており、水分や塩分補給にも人一倍気を遣っているケースがほとんどだからです。

万が一、自己管理能力にやや難がある選手であれば、周りのトレーナーやコンディショニング担当がきっちりとチェックし指導を行いますし。

現場の専門家が、最も考えなくてはいけないこと。

それが、彼らのピッチングの際の動作特性です。

 

コッキング期から加速期のエキセントリックな収縮が問題に

ちょっと専門的な話になりますが、投球動作はいくつかのフェーズに分類されます。

ワインドアップ期、アーリーコッキング期、レイトコッキング期、加速期、減速期、フォロースルー期。

足を振り上げるワインドアップ期から、軸足でプレートを「斜め後方に踏みつけて」できるだけ勢いをつけながら前足を着地するところまで持っていくアーリーコッキング期。

ここから前足を着地するレイトコッキング期から加速期へ。ここでのボールリリースの直前に攣ってしまう。経験上、このフェーズで攣ってしまう投手がほとんどなんです。

軸足の下腿三頭筋群はこの局面で最も急激に引き伸ばされる「エキセントリック」形態の収縮をします。もちろんそのメカニズム自体は「つり癖」の出る以前から変わっていません。

一般人の我々が想像している以上に、一流投手の軸足でのプレートへの「押し付け」の力はすごいもの。一球一球、軸足の裏側の筋肉にかかる負担は相当なものです。

・投球フォームの修正や股関節可動域の拡大による投球ステップの拡大(好調時ほど起きやすい)

・外転/外旋筋力の低下などによる股関節の内転・内旋動作の代償動作の増大(蓄積疲労による変化)

・上半身からムチのようにしなる連動(ウィップ動作)が今までのように使えず、上半身と下半身の「割れ」が不自然となり代償動作が増大(不調なとき起こりやすい)

 

こういったことが「攣り」に影響している可能性が高いと感じています。

 

投球動作の中に今までと違う部分があり、そのストレスが軸足のふくらはぎに集中して負荷をかけている。そう当たりをつけたうえで、更に細かい仮説をいくつか立てる。

スローモーションで投球動作を昨年までのものと並べて比較し、特にワインドアップ期からアーリーコッキング、レイトコッキング期までを徹底して考察する。

そのプロセスの中で具体的な対策が出てくるはずです。

 

具体的に考えられるアクションは

投手がピッチング中につってしまう。

この原因が明確にわかっていない場合、まずは股関節の可動性を高めるドリルを徹底的に行うべきだと思います。

ふくらはぎに過負荷がかからないようにするためには、体幹部の安定性を高めて股関節の可動性をしっかりと確保しておくのが前提になるからです。

強烈な攣りを一度経験してしまうと、特にふくらはぎのように末端にある筋肉はより攣りやすくなります。患部への治療も必要でしょうが、極端に緩めすぎるのはNG。

 

[box class=”yellow_box” title=”考え得る具体的対策”]

・足関節の背屈動作が拡大するようなモビリティドリルを投球前にルーティン化する

・エキセントリック収縮形態への適応が原因と仮説を立てた場合、量を慎重に制限した上で全身を用いたプライオメトリクスを実施する

・安直に「ふくらはぎ周囲を鍛える必要がある」と判断し、下腿三頭筋群を中心にした強化は行わない
→投球時にのみ攣るということは、動作の連動に何らかの課題があると考えられるため

[/box]

 

・・・上記はあくまでも例です。

しかし技術コーチやトレーナー陣とコミュニケーションを取り、仮説に対する対応を一つ一つ積み重ねていくことが大切ですよね。

高いレベルの速球投手に多い悩みでもある「攣り」問題。
この問題をあまりにも意識しすぎる投手は、徐々に調子を崩していく傾向にあります。

実際に今季のソフトバンク武田投手の調子もなかなかあがってきません。前述した千葉ロッテ時代の投手も、先発投手として一定以上の球数を投げるのは困難になっていきました。

問題が長期化する前に、精度の高い仮説を立てて、前向きに対処していくようにしたいものです。

 

ラグビー選手におけるつりの原因で多いもの

今度は私が現在関わっているラグビー選手に多いと考えている「つりの原因」を述べていきます。

筋肉の収縮形態に着目する

正直データとして発表できるようなものではありませんが、社会人ラグビーに関わって5年目。
肌感覚として感じているのが、「フォワードとバックスの攣りでは基本的な原因が違うことが多い」という点です。

スクラムを組んだり、近場でタックルに行く機会が多いフォワード。彼らに関して考慮すべきは筋肉の収縮形態の違いです。

スクラムでは高い筋張力を発揮しつつも、筋肉の長さは変わらないアイソメトリック収縮をしています。

スクラムで押し込まれた場合には、筋肉が不本意ながらも「引き伸ばされてしまう」エキセントリック収縮へ。

ボールが出てからは一気にコンセントリックな収縮で動き出すわけです。

3つの筋肉の収縮形態をスイッチしながら、バックスよりも重たい自分の体重をコントロールしつつ、動き続ける。

フォワード、特にプロップ陣(スクラムの際、一番前で組む3人のこと)の攣り予防のためには、普段の練習やウエイトトレーニングでも、3つの筋肉の収縮形態を考慮した比率で強化していく必要があると感じています。

それに対して、バックスの攣りは突発的なものが多く、またほぼ肉離れに近いような重症度の高いものが多いです。

こちらに関しては、単純に瞬発的な動作に対する耐性を高めておくという観点がより重要。ざっくりと言えば、そんな風に捉えています。

 

グラウンドの状態も考慮に入れておこう

芝生の上でプレーするようなラグビーやサッカーでは、フィールドによる芝生の深さやグラウンド状況も大きな影響を与えます。

無意識に近いですが、私はビジターのグラウンドやスタジアムに到着したら、まずグラウンドの状態と芝生をチェックします。

春先にはまだ芝生が根付いていないグラウンドも多く、ポイントの高いスパイクと通常のものを2足用意して、グラウンドによって使い分ける、などの工夫も必要です。

一流レベルの選手であっても、ラグビー選手は意外とその辺に無頓着で驚いた記憶があります。

個別に声をかけて、こういった細かな工夫をするように指示することで、ずいぶんとふくらはぎの攣りは減ると思います。

 

GPSデータを活用して

前述したバックス選手に多いつりの原因。試合展開による瞬発的な動作や速い展開に、筋肉がついていけないといった仮説をご紹介しました。

この対策としては「公式戦で考え得る最悪のシナリオ」に備えた高強度のトレーニングを、意図的に練習で経験させていくこと。

GPSはこういった対策に実に役に立ちます。前チームでも過去3年間に蓄積したGPSデータの中で、最もハードだった試合の数値を細分化。

その数値を上回る強度の練習を、意図的に年に数回実施しました。

具体的にチェックしていく数値は、High Speed Distanceと言われる総走行距離に対する速いスピードでの移動、Work rateで示される一分間で動く距離、Effortと呼ばれる加減速を繰り返した回数などを用いています。

 

よくつる選手で着目すべきは交感神経のスイッチ

最近がぜん着目されているのが、交感神経および副交感神経のスイッチによる原因があるのではないか、という説です。

意外と盲点なので、ここでも紹介していきますね。

 

あがり症の選手・本番に強い選手の両極端が危ない?

前述した「つるメカニズム」にもあったように、筋肉そのものに「自主的に緩める」能力はありません。
ただただ縮むのみ、なのです。

電解質と呼ばれるミネラルの働きで、筋紡錘に「筋肉を緩めてね~」という指令を送り、初めて筋肉は弛緩するわけです。

ははぁ、カルシウムってこんな風に働くんだぁ、と筋生理学で感心した日を思い出します・・・

筋紡錘に伝える水や電解質バランスを調えるのは、副交感神経の働き。

もし過度な緊張状態で、交感神経ばかりが優位になってしまったり、試合中に突然スイッチが入ることで、一気に交感神経ばかりが緊張したりすると・・・

筋肉の疲労レベルやミネラル不足の有無にかかわらず、突然攣りを経験する可能性はあるわけです!

現場のトレーナーの方で、担当チームでよく攣ってしまう選手を頭に浮かべてみてください。

その選手、やたらとあがり症じゃないですか?
もしくは、妙にいつも落ち着いて本番に強い、穏やかな選手じゃありませんか?

試合になると、ちょっと神経質になったり攻撃的になる、ごくごく普通の選手でなく、両極端の選手こそ「交感神経・副交感神経のスイッチ機能低下」による攣りを疑うべきです。

参考になった副交感神経の働きに関する本

 

音楽を上手に活用させよう

こういったタイプの選手たちには、具体的にどういった対策をすすめたらいいのでしょうか。

私が実際に行ったのが、音楽の活用です。

あがり症の選手には、試合直前までα波が出ると言われている音楽CDをプレゼントし、それを聞かせていました。

逆に泰然自若としたある選手に関しては、普段の練習前から激しい音楽を聴き、気分を高ぶらせてから練習参加させるよう指示。

特にあがり症の選手に関しては、こまかな攣りの症状は一気に減りました。一定の効果はあると感じています。

スキマ時間でも試せること

 

[box class=”blue_box” title=”今から試せること”]

・前半終了時、12分間のインターバルで2分であっても呼吸法による筋弛緩法をさせる

・投球間のベンチに戻る際足を高く上げた状態で目をつぶらせておく

・タオルを顔にかけてプレー直前までは視界を遮断させてしまう

[/box]

 

スキマ時間であっても、攣り防止として試せる施策はたくさんあります。

すべてを一気に行うのはストレスになりますが、仮説を立てて一つずつ潰していく。

結果から検証していくことが、実際のスポーツ現場では一番の攣り防止対策になると思います。

 

まとめ

・筋肉のつりの基本メカニズムは、ミネラル不足、筋肉疲労、冷え

・ふくははぎのつり予防に「特効ツボ」は効く

・一般とスポーツ現場でのつりの原因は違うことが多い

・動作メカニクスや自律神経バランスなどにも着目すべき

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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