シンプルだけど超重要な「筋肥大をさせる」を深掘りする

この記事は2016年6月に旧サイトに掲載したものを加筆・編集したものです。

今回はシンプルにストレングス&コンディショニングの専門家らしく。筋生理学の復習をしながら、筋肥大について書いていきます。

今回の記事のテーマを思いついたのも、選手の一人から

「弘田さん、ところでそもそも何でこのテクニックを使って追い込んでいるんですか?」

という素朴な質問をされたから。

 

「そりゃ追い込んで筋肥大させたいからだよ。」

と答えましたがすかさず、

「え、じゃあ筋力を鍛えるってイコール筋肥大なんですか?」

と返され、え~っと厳密にはそうじゃないけれど、とアタフタ。

筋肉って体の各部位で筋肉が占める割合が大きいほうが力は発揮できるんだよ、筋の横断面積なんて表現もするんだけどね、それは筋肥大のアプローチをするとより大きくなるんだ。

こんな風に伝えましたが、あまり上手く説明できなかったんです。

これじゃあイカン!と今回のテーマを取り扱うことにしたのでした。

 

筋肥大のメカニズム

なぜエクササイズを継続することにより筋肥大が生じるのか。実はこの部分って今でも完全には解明されていません。

しかしそんな中でも、3つの基本的な要因がエクササイズによって起こる筋肥大の促進に関係がある、とされています。

①機械的な張力
②筋損傷
③代謝ストレス

この3つです。

機械的な張力

機械的張力は現在のところ、筋肥大を起こす最も関わっている要因だと考えられています。

ストレングストレーニングにおいては、機械的張力の大きさは主に「強度(負荷の量)と張力がかかっている時間(負荷の持続時間)の関数」になります。

1RMに対してという前提はありますが「どれくらいの重さのものをどれくらいのセット数と回数で、一回のスピードをどのくらいコントロールさせるか」

この部分が機械的張力を変化させる変数になる、ということです。

 

筋損傷

2つ目の筋損傷は比較的理解しやすいところ。

筋損傷が発生したことによって、細胞内の好中球やマクロファージ(大食細胞ですよね)、リンパ球が関与する炎症反応が起きる。

そこからマイオカインが産出されて、筋肉量を抑制する働きのミオスタチンなどは制限され、IGF-1(インスリン様成長因子)やIL-6(インターロイキン6)などの働きによって、筋肥大を助長するのではないか。

これが現段階での生理学的な見立てになります。

 

代謝ストレス

そして3番目の代謝ストレス。最近の多くの論文でこの可能性が示唆されているようです。

ストレングストレーニングから生じる代謝ストレスは、筋肉内に乳酸や水素イオン、無機リン酸などの代謝産物を蓄積させます。

代謝が増加することによって同化させるための変化が促進される、と推察されているわけです。

この望ましい変化には筋損傷の際にも出てきたIGF-1やGH(成長ホルモン)、テストステロン(男性ホルモンの代表選手です)などの組み合わせによって調節されていると考えられています。

加えて高強度のトレーニングでは無酸素系のエネルギー系統が刺激されますから、早い解糖が起こります

その解糖に伴ってpHの当然低下。

この変化が交感神経の活動を刺激して筋線維の分解を増加させることで筋肥大の適応がさらに促進されているんじゃないか、という研究も今盛んになっているそうです。

これだけいろいろ難しい言葉を並べられると、全て正しい気がしてくるから、弘田の化学アレルギーも相当なものがありますが…

 

ストレングスを向上させる、ということの大前提は筋肥大

最大限まで筋を発達させることがストレングストレーニングの基本的な目的です。

筋力と筋の横断面積には直接的な相関関係がはっきりと存在しているという前提を考慮すれば、現在関わっているラグビーでは特に筋肥大は大事な要素。

指導しているストレングストレーニングにおいても、様々なアプローチを使ってこの筋肥大を効果的に行わせる取り組みをしています。

筋肥大を狙ったトレーニングテクニックについて

現在判明している3つのメカニズムを意識した上で、実際の現場でどういったトレーニングテクニックを指導しているのか紹介します。

フォーストレップ

これは挙上できる限界まで種目を反復し、出来なくなったところで補助者がスポットに入る、というもの。

前回紹介した筋肥大のメカニズムで考えると、代謝ストレスを増大させているということになるのでしょう。運動単位であるモーターユニットをより疲労状態にさせようということになります。

同じ回数とセット数を行う際に、フォーストレップテクニックを用いる/用いらなかったパターンを比較すると、ワークアウト30分後の成長ホルモン(GH)濃度は優位にフォーストレップ群が強かった、という研究結果もあります。

現場でわざとフォーストレップを含めるように設定する、ということはあまりありません。

それでも6回x4セットのような種目構成だと、3~4セット目の5~6回目は大抵スポットが必要になるはず。結果的に1~2回はフォーストレップが入るように設定しています。

 

スピードコントロール

正式にこういった名称で呼ぶのかは正直定かではないのですが、これも今行っている実施法の特徴の一つです。

2111、4010といった表記を種目の横にいれ、明確な目的を持ってスピードを制限することを実施しています。

スクワットを例にして説明しましょう。

2111のパターンではスクワットの下降期を2秒かけて行い、最下点で1秒停止。1秒かけて上昇させ、膝を完全伸展させて1秒保持。

オーバーヘッドスクワットなどではこういったスピードコントロールを選ぶことが多いです。

反動を使うのではなくしっかりとした動きを最大可動域で行わせたい、という目的であれば合致するのではないかと考えています。

4010は4秒かけてゆっくりとコントロールしながら下降させ、ボトムポジションにつくなりすぐに戻し1秒で上がる。膝が伸びきる直前ですぐに切り返しを意識し再び下降へ、という流れ。

エキセントリック収縮の局面を強調させることで、重量だけに頼ることなく効果的に筋肥大を助長させる、という目的を持って指定していくわけです。

スーパーセット

休息なしで連続して2種目を行わせる方法。トライセットになるともう少し広義での組み合わせを考えるのですが、スーパーセットでは主働筋と拮抗筋の組み合わせ且つ動作方向を揃えたもの、という自分ルールを作っています。

ダンベルチェストプレスと1アームロウはOKだけど、ラットプルダウンやチンニングはNOということです。

…この辺りのこだわりは自己満足レベルのものなので、どうでもいいんですけれど。

筋肥大目的というだけではなく時間効率を考えている部分が大きいのですが、トレーニング密度が上がる分、疲労レベルは上がるのでこういった側面もあるのではないか、と思っています。

 

よく知られているテクニックでも使っていないもの

コンパウンドセットといって、同じ部位に対する種目を二つ続けるパターンも有名。しかし私はここ5年はこの組み合わせは使っていません。

トライセットで結果的に1番目と3番目に入る事はあるのですが、動作パターンで分けていることが多く俗にいう筋肥大を狙っているわけではないのです。

他にはヘビーネガティブといわれる、頑張って降ろすところだけ耐えてコントロール。上げる局面は補助に任せる、というパターンのテクニックですが、これも筋ダメージが大きすぎるのが最大のネックですよね。

筋トレだけでなく技術練習も週5は行うのがラガーマンなので、あまり現実的な方法ではなくこのテクニックも使用していません。

 

まとめ

・筋肥大の詳細なメカニズムははっきりしていないが3つのメカニズムが関与していると考えられている。

・ストレングス向上の基本は筋肥大。

・筋肥大を狙ったテクニックが多く存在する。弘田は現在コンパウンドセットやヘビーネガティブ法は利用していない。

 

 

 

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YUJI HIROTA

アスリートスポーツの現場をメインに活動するトレーニング・コンディショニングの専門家。「コンディショニングコーチ」ですがスポーツトレーナーといった方がわかりやすいのかも。実は鍼灸師でもあります。
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