WEDGEにて連載として続けていたものを一冊にまとめた、元横浜ベイスターズの高森勇旗氏の処女作。ラグビー公式戦最終節のために名古屋に向かう近鉄特急の中で読了しました。
以前からこの連載の中で見せる高森氏の文才を感じていただけに、予約注文をしてすぐに読み切ってしまったこの作品。現役時代の知名度に関係なく、散りばめられた25人の選手たちの現役生活晩年の様子。
その中には私が関わった渡辺俊介氏や生山裕人氏、佐伯貴弘氏の項目もありました。
2010~2011年には加藤康介投手のパーソナルトレーナーをさせてもらっていたこともあり、ベイスターズの横須賀にある二軍施設には頻繁に訪れていました。
父が横浜にて野手チーフコーチや打撃コーチを務めていた時代の教え子ということもあり、そこで早朝から黙々とトレーニングを行っている佐伯貴弘選手とも少し会話をさせていただけるように。
私の先輩、立花龍司コーチが大学時代から佐伯さんとお知り合いというご縁。それにより千葉県習志野市のタチリュウコンディショニングジムまできていただき、2010、2011年と2年間に渡ってオフ期間のトレーニング指導をさせていただけたんです。
最も喜んでくださったのが、トレーニング中のわずかな重心の偏りや体の代償動作をチェックし指導させていただいた点。
「何年か疑問に思っていたことが解消された。今までそこまで細かい感覚を共有してくれた人はいなかったから。…ありがとう。とにかく気がついたらどんどん伝えてくれ」
この時期のトレーニングはこういった指導も含めて行わせていただいたので、だいたい2時間ぐらいはかかっていました。普段からパーソナルでのトレーニング指導ってすごい集中力を使っている私。
緊張感も手伝ってでしょうが、佐伯さんとのセッションでは毎回自分が動いているわけでもないのに、Tシャツから汗が絞れるほどの発汗していました。
後にも先にもこれだけ長時間、集中力の高い状態を維持してトレーニングに向き合っている選手には会ったことがないので、私自身、本当に貴重な体験になりました。
取り組みも一流である佐伯選手から、「弘田君、全部プログラム任すから作ってよ。いわれた通りやるから。」と言われたことは今も大きな自信になっています。
この本の中で、渡辺俊介の項目にしても、生山裕人の項目にしても、私が本人たちに直接聞いた話とまったくずれたところはなし。
当たり前のように感じるかもしれませんが、語り手の意向をそのまま伝えつつ、自分の言葉や思いを足していくという作業は本当に難しいもの。
「え、こんな風な意味で言ったんじゃないのに…」、「この部分だけ強調されて、違う話になっちゃってるよ…」みたいなことは往々にあるものです。
その「ズレ」を全く感じさせず、その時の情景が浮かんでくるような、正確でかつ優しさを備えた文章。
テレビで脚色された同じようなタイトルのものでなく、自身も不安や恐怖を抱えながら「そのとき」を迎えた著者だからこそ、描けたリアル。
実は私は高森君ときちんとお話したことは一度しかありません。その際、ご本人は「いろいろ楽しそうなことをやっていこうと思っています」と言っていました。
様々な分野で活躍していく中でも、今後スポーツ界を中心としたライターとしての活躍していくのは間違いないだろうなぁ、と私は勝手に目している注目の人物。
彼の文才に触れたい人にも、一年一年が勝負のプロの世界で生きているアスリートの真実を知りたい人にも、間違いなくおススメの書籍です。
私自身は、あとがきにあった田代富雄さんの言葉に一番胸が熱くなりました。
[box class=”yellow_box” title=”本文より引用”]「(前略) 俺たちはみんな、いつか野球を辞める時が必ずくる。そしたら、その時はどうか、『この世界に入ることができた』ということを誇りに持って辞めていってほしい。この世界に入ることは、普通のことじゃないんだ。だから、何もマイナスなことはない。胸を張って辞めていってほしい。」[/box]
私自身、プロ野球選手の息子として生まれて、毎年「現役引退」という四文字に対する恐怖や不安と戦っている父親の姿を見て育ってきました。
今の仕事をスタートする際にも、ある種の不安と戦う単年契約のアスリートと同じような気持ちと覚悟を持って今日までやってきたつもりです。
あとどれだけ現場に携われるかはわかりません。しかし胸を張って辞めていける日を迎えられるように、覚悟と夢を持って現場に立っていくんだ。新たにそんな思いにさせられる本となりました。
・一作家として高森勇旗の名前は覚えておくべき
・佐伯貴弘さんにトレーニング指導を任せてもらえたことは自分の財産の一つ
・「スポーツ現場の最前線」で選手と共に戦ってきた誇りを胸に辞めていける日まで、覚悟と夢を持って現場に立っていきたい